マツダ技報2023
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1VV0 io  V (9)(10)(11) ここで,Pは荷重を見かけの面積で除した圧力,Tは摩擦面温度,Vは速度,τ0,τ′,τ″0,α,β,θ は定数である。 Briscoeらの実験式は,ステアリン酸等によって形成される分子膜のせん断応力の実験結果より導出している。また,Briscoeらは,文献(5)中でEyringの絶対反応速度論を基に,式(12)に示す理論式を構築することで,式(9)~(11)を説明している。(12) ここで,kはボルツマン定数,φ,Ωは体積の次元をもつ定数,V0は速度の次元をもつ定数,Q′ は活性化エネルギーである。 このBriscoeらの理論式より,せん断応力 τ の速度,温度依存性は,潤滑油中の添加剤が構成する分子膜の剥離と再吸着のバランスに起因すると考える。概念図をFig. 17に示す。―142― ]-[noitcirfnoitubirtnoCdulf f ]-[ laer aera tcatnoc f o noit aRV 000QPlnReabsorption ∝ Temperature Additive Peeling ∝ ln(V) Molecular FilmcT()Plna()Pb()PP at constant V, T T at constant V, P ln()V at constant P, T 1.5kTProtrusions Molecular film 5.0Fig. 17 Conceptual Diagram of Peeling and Adsorption  Fig. 8に示すAT実装環境下での μ の荷重・速度・摩擦面温度の依存傾向は,Briscoeらの実験式(式(9)~(11))と一致していることから,境界摩擦のせん断応力のモデル式は,それらを集約し,式(13)の形とする。式中のa,b,cは荷重依存性をもつ。(13) 式(13)は厳密にはオリジナルのBriscoeらの実験式と異なっている。具体的には,速度と摩擦面温度の関係において,式(12)では速度と温度とが積の関係であるのに対して,式(13)では差の関係となっている。これは,今回計測したクラッチの速度が,Briscoeらの実験における速度に対して桁違いに大きいために,式(12)の右辺第1項にある自然対数の効き方が逆方向となり,そのままの形では用いることができなかったためである。これにつ8%6%4%2%0%0.0Fig. 14 Contribution of Fluid Friction Force to μ3.3 真実接触面積の計測 境界摩擦力モデルを構築するにあたり,式(7)の右辺第2項より,境界摩擦力は真実接触面積Arとせん断応力 τ との積で決まる。ここで,Arは荷重によって変化することが報告(3)されていることから,境界摩擦力が荷重依存性をもつことが考えられる。そこで,Arの荷重依存性について計測を行う。計測は,摩擦材をサファイアガラスに押し付け,接触面の画像をレーザー共焦点顕微鏡にて取得する。得られた画像データを二値化し,接触部の積算を行う。Arを見かけの面積Aで除した,真実接触面積割合の荷重依存性をFig. 15に,二値化画像の一例をFig. 16に示す。0.3%0.2%0.1%0.0%0.0Fig. 15 Load Dependence of Real Contact Area RatioFig. 16 Binarized Image of Friction Facing Contact Area3.4 境界摩擦のせん断応力モデル構築 境界摩擦におけるせん断応力 τ は,母材同士での接触のみならず,潤滑油中に含まれる添加剤分子等が形成する境界潤滑膜を介した接触も考慮する必要がある。ここで,3.2節で示したように,摩擦材の摩擦現象では境界摩擦の寄与が支配的であるため,せん断応力 τ が荷重・速度・摩擦面温度依存性をもつと考える。そこで,τ が80°C, 100rpm 80°C, 500rpm Load [kN] 0.51.01.03.02.0Load [kN] 4.0Binarized image Oil Friction surface 明できない。 この結果より,摩擦材の摩擦現象では境界摩擦の寄与が支配的である。つまり,高精度な μ 推定の実現には,境界摩擦力の荷重・速度・摩擦面温度依存性のモデル構築が必要である。これら依存性をもつとしたBriscoeとEvansのLangmuir-Blodgett膜に対する実験式(5)を参考にモデル構築を行う。Briscoeらの実験式を式(9)~(11)に示す。〔出典:文献(5)〕

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