マツダ技報2023
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―146―Fig. 1 Functions of Anti-corrosion CoatingFig. 2 Failure Mode of Anti-corrosion Coating3.1 腐食抑制期間(分極プロファイル)の評価・解 塗装面上に電解質溶液を保持した状態で,塗装金属材の鋼板と塗膜表面との間に時間に対して徐々に増大する電圧を印加し,水とイオン物質を強制的に塗膜に透過させる。あらかじめ設定した電流値に到達した時の電圧値に基づいて耐食性を評価する。この電圧値と従来の実腐食試験で塗装金属材に錆が出始めるまでの期間との関係をあらかじめ求めておくことで,塗装金属材の絶縁電圧から腐食抑制期間を求めることができる(1~5)。本研究では,第2章で示したあらかじめ故障モードの分かっている電着塗装試験片を使用した(Fig. 2)。また,電解質溶液として5wt% 塩水を用い,1V/sの速度で昇圧を行った。その際に得られた分極プロファイル(電流/電圧プロファイル)を解析した(Fig. 3)。Fig. 3 Evaluation Method of Corrosion Incubation3.2 分極プロファイルの機械学習 正常塗膜,及び代表的な故障モードの試験片を用いた試験から得られた分極プロファイル(電流/電圧プロファイル)を入力として,正常,異常(膜厚異常,膜質異常)の分類を出力とした多クラス分類モデルをランダムフォレスト分類器(7)で構築した。教師データは,分極プロファイルとその判定ラベルをセットとした合計62仕様の試験結果を使用した。その内訳は,正常塗膜19仕様,異常塗膜43仕様(膜厚異常19仕様,膜質異常24仕様)である。4.1 電着塗膜の代表的な故障モードと分極測定にお 電着塗膜の代表的な故障モードと腐食抑制期間評価における通電モデルを示す(Fig. 4)。正常塗膜では,塗膜内へ水やイオン物質が浸透し難く,塗膜内の最も脆弱な部位で高い電圧で絶縁が破壊され通電すると考える(Fig. 4上段)。従って,分極プロファイルは電圧が上昇しても初期には電流が流れず,数百Vの高い電圧で絶縁が破壊され急激に電流が増加する傾向を示すことが分かっている。2. 電着塗膜の故障モード3. 実験手法と機械学習手法析方法4. 実験結果と考察障モードとの関連性を明らかにする。更には,塗膜の品質異常を予知することをねらい,データ解析に機械学習を活用した技術の開発にも言及した。 自動車用の電着塗料は,主にエポキシ樹脂により構成される。膜厚が厚く,膜質がよいものほど,腐食因子である水やイオン物質の遮断性が高く,錆の発生が遅いと考えられる。このことから電着塗膜の故障モードは,膜厚異常と膜質異常に大別できると考えられた。膜厚異常を細分化すると,素材自体(鋼板)の表面凹凸により凸部で有効膜厚が減少する場合,塗膜中のコンタミ(溶接スパッタや鉄粉など)で有効膜厚が減少する場合,塗料や塗装条件が悪くガスピンホールが発生して有効膜厚が減少する,の3つに分類できる。膜質異常の原因は,塗料中に含まれる硬化触媒の不足や炉内での加熱不足により樹脂の架橋密度が低下する,市場において紫外線の影響によって電着樹脂の架橋が切れる(6)ことが考えられた(Fig. 2)。ける通電モデル

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