マツダ技報2023
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―147―Fig. 4 The Energization Model in Evaluation of Typical Failure Mode and Anti-corrosion Coating4.2 電着塗膜の膜厚と分極プロファイル 溶接部近傍において鋼板表面に存在するスパッタの個数が異なる試験片に電着塗装を行った。何れの試験片も電着塗装時の加熱温度は423K,加熱時間を1200sとした。塗装前の溶接ビード周辺のスパッタの存在状態,及び塗装後の分極測定の結果を示す(Fig. 5)。写真は代表的な部位について示したものである。図中のスパッタ個数はデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製,VHX5000)を用いて10倍で5視野を観察した結果を基に試算した。分極測定は,電解質溶液(5wt% 塩水)を用い,電解質溶液と電着塗膜の接触面積は1×10-4 m2とした。スパッタの個数が多い試験片ほど分極プロファイルに凸形状が多いことが分かる。一方,鋼板表面にスパッタの存在しない試験片では凸形状は認められなかった。凸形状が発生する理由は4.1節の通電モデルで示しFig. 5 Polarization Profile of Test Pieces with Di■erent Spatter Amounts, Baking Temperature: 423K, Baking Fig. 6 Relationship Between the Number of Spatters and the Number of the Convex Shapes in the Polarization Profile, Baking Temperature: 423K, Baking time: 1200s, Thickness: 30×10-6 mtime: 1200s, Thickness: 30×10-6 m4.3 電着塗膜の膜質と分極プロファイル 加熱によって樹脂の架橋反応を進行させる自動車用の電着塗料において,樹脂の熱劣化が起こらない加熱温度範囲(408~463K程度)であれば,樹脂の架橋密度は加熱温度が高く,加熱時間が長いほど高くなる。樹脂の架橋レベルの代用評価法として,一般にゲル分率(%)が用いられる。ゲル分率(%)は,未硬化の樹脂分をアセトンで還流して溶出させ,その際の塗膜の重量変化から未硬化の樹脂量を試算することで算出できる。今回,電 次に,膜厚異常の代表例として,塗膜内に溶接スパッタや鉄粉などのコンタミが存在する場合について考える。溶接スパッタや鉄粉が存在する部位は局所的に塗膜の有効膜厚が減る。水やイオン物質は正常塗膜と同様に塗膜内へ浸透し難いが,水とイオン物質がスパッタや鉄粉に接触すると低い電圧で通電が起こる(Fig. 4中段)。その際に閾値として設定した電流値以下の通電が起こる場合,水の電気分解で発生したガスが通電起点を一時閉塞し,分極プロファイルに一つの凸形状が形成される。大きさの異なる複数のスパッタや鉄粉が塗膜中に存在すれば,分極プロファイルは幾つもの凸形状をもつことが分かっている。 最後に,膜質異常の代表例として,加熱不足で樹脂同士が十分に架橋していない場合について考える。この場合には塗膜全体に水とイオン物質が容易に浸透して素地金属に到達するため,膜厚が同等であれば,正常塗膜と比較すると低い電圧で塗膜内全体に微弱な電流が流れ始めると考えられる(Fig. 4下段)。このことから,膜質の悪い塗膜の分極プロファイルは,正常塗膜と同様に初期には電流が流れない状態が続き,正常塗膜よりも低い電圧で通電し,その立ち上がりの傾きは緩やかになる。たように,溶接スパッタが存在する部位で局所的に塗膜の有効膜厚が減ることに起因すると考えられた。塗膜内への水やイオン物質が浸透し,スパッタや鉄粉に接触すると通電が起こる。その際に閾値として設定した電流値以下の通電が起こる場合には,水の電気分解で発生したガスが通電起点を一時閉塞し,分極プロファイルに一つの凸形状が形成される。また,この凸形状の数と単位面積当たりのスパッタ数は良い相関を示した(Fig. 6)。ガスピンホールが存在する試験片においても同様の傾向が認められた。以上のことから,電着塗装面における局所的な膜厚異常の検知には,分極プロファイルの凸形状の数を分析することが効果的であると考えられた。

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