マツダ技報2023
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―8―Fig. 2 “Breakthrough”2.3 逆転の発想 そこでマツダが行ったのは逆転の発想である。まずキャビンを大きくした上で,それをどうにか美しく見せる手法を考えるのではなく,そもそもキャビンが大きいことそれ自体が美しく見えるデザインにしようと考えた。 その鍵となったのは理想のバランスである。そもそも,デザインとはバランスである。これは同時に,アートとデザインの違いであるともいえる。ある一点に特化して,たとえ作者の独り善がりであっても成立するアートと違い,複数の要素や課題を,より高い精度でバランスさせるのがデザインである。その意味で,カーデザインにおいても,さまざまな構成要素を適切な大きさで適切な場所に配置し,全てを巧くバランスさせることができれば,美しいデザインが実現できる。つまり,キャビンが大きいことがより美しく感じられる,構成要素の最適バランスを探求した。3.1 プロポーションの重要性 カーデザインにおける構成要素のバランスは,プロポーション(=骨格)とも表現される。具体的には,ボディー・キャビン・タイヤなどの,主要な構成要素の位置や大きさ,バランスで形づくられる,主に側面視におけるシルエットを指す。 そして,まさに魂動デザイン,ひいてはマツダデザインが,デザイン開発において最も重要だと考えているのが,この「プロポーション」である。そのプロポーションを,車種や車格,商品キャラクターに相応しい姿となるように見極める作業は,デザイン開発における第一歩であると同時に最も重要であり,より多くの時間と労力,そして試行錯誤が求められるプロセスでもある。したがって,このプロポーションが整っていること,つまりプロポーションを理想状態に近付けることは,美しいデザインを実現するための前提条件である。3.2 理想プロポーション実現のために 魂動デザインが目指す理想のプロポーションとは,“動きを感じるプロポーション”である。 そこには,自動車とは動くものであり,動くものであFig. 1 Exterior Overall2. デザインコンセプト2.1 デザインコンセプト『DIGNIFIED BEAUTY』 CX90のデザインコンセプトは,『DIGNIFIED BEAUTY ―凛とした風格―』とした。堂々かつ凛とした佇まいとダイナミックなプロポーションを実現し,北米をはじめとする大陸の広大な環境と,その競合達に負けない強さを表現したい,という想いをこの言葉に籠めた。 マツダの新しいフラッグシップモデルとして相応しい堂々たる存在感をもたせながら,2010年にスタートしたマツダデザインのテーマ『魂動』において一貫して大切にしてきた,生命感を感じる“動き”の表現もしっかりと進化させて表現したい,というねらいである。2.2 デザインの勝ちシナリオ そのコンセプトを基に実際のデザイン開発へと移るにあたり,CX90のデザインにおいて「競合に対して,いかに優位性をもつか?」,「どうすればお客様に選んでいただけるか?」のシナリオを描くことから始めた。そのベースとなったのは,現行モデルであるCX9のデザインにおける市場評価である。現行CX9は,競合に対して圧倒的にスポーティーなスタイリングで好評を博した。しかしその半面,引き締まって見えるスタイリッシュさゆえに,「キャビンがコンパクトに見える」として購入検討段階の早期から敬遠されてしまうというジレンマを抱えていた。 では,CX90としてデザインをどう進化させるべきか?単純な現行CX9の延長線上,つまりスポーティーさの更なる強調だけでは,これまでもキャビンのコンパクトさを理由に敬遠されていたお客様からの支持が得られないのは明白である。逆に,たとえキャビンを拡大したとしても,そのために現行の強みであるスタイリッシュさを失ってしまっては,これまでマツダのデザインを高く評価していただいてきたお客様を裏切ることになってしまう。では,その相反する要素である,キャビンを拡大させること,そして美しいスタイリング,の2つを同時に成立させるにはどうすればよいのか?これはカーデザインにおける二律背反の両立でもあり,通常とは異なる,何らかのブレイクスルーが必要である(Fig. 2)。3. エクステリアデザインPRACTICAL ×:STYLING○:UTILITYCX-9 ○:STYLING×:UTILITYCX-90○:STYLING○:UTILITYSTYLISH

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