マツダ技報2023
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(2)キャビンの重心位置 キャビン重心も,前輪駆動プラットフォームの性格上,前後のタイヤに対してニュートラルな,ややスタティックさを感じる配置となっている。加えて,そのスタティックさを打ち消すために,キャビンを上下に圧縮するとともに,バックウィンドウの傾斜を強めるなどのスタイリング処理を加えている。そしてこれが,前述の「狭く見える」ことを助長させる要因であり,その軽快でスポーティーな印象と引き換えに,前後対称感によるスタティックな印象を助長させてしまっている。 そこでCX90では,キャビンの上下・前後寸を拡大しながらも,その荷重がしっかりと後輪へ掛かる位置まで重心を後方移動させることで,全体バランスを最適化した。同時に,後ろ脚で力強く蹴り進む,魂動デザインの理想プロポーションを強調させている(Fig. 6)。(1)前後オーバーハング長 前輪駆動プラットフォームがベースとなるCX9では,前輪へのトラクションやコンポーネント配置などの関係上,フロントオーバーハングが長くならざるを得ない。同時に3列SUVであるためリアオーバーハングにも長さが必要となり,結果的にオーバーハングがほぼ前後対称になっており,“動き”を表現するために必要な長短のリズム(非対称)を表現することができていなかった。 そこでCX90では,フロントオーバーハングを短縮すると同時に,リアオーバーハングを延長して,前後オー―9―Fig. 3 Sense of MotionFig. 4 Sideview of CX9Fig. 5 Visual Rhythm of OverhangsFig. 6 Position of the Cabin CenterCX-90 CX-9 CX-90 CX-9 る以上,その行為に対して理想を追求したプロポーションであるべきだ,という考えが根底にある。そのため,2010年の魂動デザインのスタートから一貫して4つのタイヤ,つまり4つ脚で動くための理想のプロポーションを追い求めてきた。自然界において高速移動する4つ脚動物の骨格を参考にし,後ろ脚=リアタイヤに荷重をかけるプロポーションに拘ってきた。たとえ停まっていても今にも動き出しそうな,生命感あるプロポーションをその理想とした。 では,プロポーションに“動き”を与えるにはどうしたらよいか?見る人に“動き”を感じさせるためのひとつのヒントとして,「非対称」がある。「左右対称」や「前後対称」など,完璧に均整が取れている形状は,“安定感”や“安心感”を感じさせる反面,静的な印象を与えてしまう。逆に「非対称形」からは,“偏り”も感じる反面,どちらかへ動き出しそうな動的な印象を与えることができる。より身近な例を挙げるなら,正三角形と直角三角形の違いをイメージしていただけるとご理解いただき易い(Fig. 3)。 その視点で現行CX9のプロポーションを振り返ると,動きを感じるプロポーションを実現する上で,改善すべき点が大きく2つあると感じた。それは,①前後のオーバーハング長(※オーバーハング:車軸中心から前後ボディー端までの距離),②キャビンの重心位置,の2つである(Fig. 4)。バーハング長に長短のリズムを設けた。それによって前後非対称感による動的な印象を生むとともに,多人数乗車時や荷物積載時に最適なトラクションとなるSUVらしさも表現した(Fig. 5)。 その結果,CX90のプロポーションは,より前後の非対称形,及び後輪荷重の色合いを強めた,非常に“動き”を感じさせるものとなった。このキャビンが大きいこと自体がより美しく感じられるプロポーションの最適化を行ったことで,CX90デザインの勝ちシナリオとして設定した,室内空間の拡大と美しいスタイリングの二律背反を両立させることができた(Fig. 7,8)。 そこには,デザイン開発としての苦労はもちろんだが,

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