マツダ技報2023
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(2)光の動きの強調 上記(1)にも通じるが,基本造形をごくシンプルなものにできたことで,魂動デザインが目指すボディー表面の「光の動き」が,更に強調されたことも大きい。CX90においても,他の新世代商品群と同様,周囲の光や環境を映り込ませ,絶えず変化し続ける光の動きを表現している。特に,フロントフェンダーからフロントドアにかけての,映り込みが円弧を描くような表現や,Dピラーからリアアーチにかけての力強い光の動きは,同サイズのSUVには見られない非常にユニークかつエモーショナルな処理であり,“ゆらぎ”や“移ろい”といった日本の美意識をも感じさせる,マツダブランドを体現する表現ともいえるだろう(Fig. 10)。(3)フロントエンドの厚み キャビン重心位置を後輪に近づけて“動き”が表現できた結果,ベルトラインのウエッジ(楔形=前方へ向けて下がる表現)を弱めてもエモーショナルなアピアランスを実現することができた。それによってフロントエンドの厚みを増すことができている。更には,フロントオーバーハングの短縮とタイヤ外径の拡大も相まって,CX9比で最大40mm弱の物理的な厚み増を実現できた(※装着タイヤによる)(Fig. 11)。 加えて,堂々としたグリル形状や,エアカーテン用の縦型スリット開口をフロントバンパー両端に配したCX90ユニークのデザイン処理も相まって,北米をメイン市場とするSUVとして必要な,堂々とした力強いプレゼンスが表現できた(Fig. 12)。―10―Fig. 7 Proportion with a Sense of MotionFig. 8 Sideview of CX903.3 理想プロポーションの恩恵 前述したプロポーション変更は,主にキャビンを拡大させることと美しいスタイリングを纏わせることの両立を目指したものだが,そこには副次的な恩恵もある。これらは実のところ,プロポーション変更に伴う恩恵として当初から意図していたものでもある。そしてそれらは,CX90のデザインにおいて非常に重要な要素でもあるため,ここに紹介しておく。(1)スタイリング要素に頼らないシンプルな造形 まず,デザインの基本となるプロポーションにおいて,求める“動き”を表現できたことで,キャラクターラインなど余計なスタイリング要素が不要となったことが挙げられる。これは魂動デザインが目指す,「引き算の美学」を,より一層研ぎ澄ませたとも言い換えられるだろう。実際にCX90の基本造形は非常にシンプルなものであり,それゆえに力強さを感じさせるものとなっている(Fig. 9)。 特に,MAZDA 3のような,キャビンとボディーをひとつの塊として魅せるDピラーの造形や,前後に明確に貫かれたベルトライン,大きく張り出したタイヤ周りなどは,CX90デザインのハイライトであるとともに,同クラスの競合にも負けない,堂々とした存在感を感じていただけるだろう。Fig. 9 Simple FormFig. 10 Beautiful MotionsCX-90 CX-9 新規開発となる後輪駆動のラージプラットフォームにおける,走りや環境対応,安全性能などの理想レイアウトと合致できたからこそ実現できた,という背景がある。もしこの新規プラットフォームがなければ,この二律背反の両立という高いハードルを越えることはできなかっただろう。

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