マツダ技報2023
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 NHTSA公表データ(2)によれば,米国では2021年で年間7388件の歩行者死亡事故が発生している。CX90は,各国法規やNCAPの基準を基に,歩行者の頭部・腰部・脚部を保護するボンネット・サポートブラケット・グリルブラケット(3)などCX60と共通の傷害軽減構造を採用しつつ,更に車幅の拡幅に伴う衝突リスク範囲の拡大に対応する傷害軽減構造を採用した。5.1 頭部保護のためのフェンダー内部構造 CX90は,CX60からフェンダーを拡幅したデザインのため,その上面に頭部が衝突するケースまで想定し,フェンダーをクラッシャブル化するS字型フェンダーブラケットを採用した。 フェンダーは,洗車やワックスがけシーンでの手押し・手つきによる変形を防止するために,従来構造では高強度のフェンダーブラケットを介してボディーに締結しているが,歩行者が衝突した場合は,フェンダーブラケットが突っ張り,変形が不十分なため,頭部への衝撃が大きく,背反特性である(Fig. 15)。 そこで,手押し・手つき荷重には耐え,頭部衝突時の一定値を超える荷重でのみ変形するS字断面を,フェンダーブラケット形状に織り込むことで両立を実現した。具体的には,角部を設けず大きな曲率半径からなる湾曲断面とし,湾曲部を複数設定した。これにより,手押―33―Fig. 13 Crash Behavior of Rear FrameFig. 14 Energy Absorption Performance of Rear FrameFig. 15 Head Impact at Conventional Fender BracketFig. 16 Sshaped Fender Bracket of CX905.2 腰部保護のためのヘッドランプ周辺構造 CX90は,腰部とヘッドランプの衝突回避のために,先当たりで衝突エネルギーを吸収するクラッシュボックスを採用した。 一般にヘッドランプは,多機能で重く,その支持に高い取り付け強度を要するため,歩行者に衝突した場合に腰部の傷害リスクが高い。傷害軽減には,腰部と接触しない車両後方へのヘッドランプ配置が有効だが,SUVらしい力強さとシグネチャーウイング発光部との連続性を表現するデザイン思想と背反する。 そこで,デザイン思想との両立のために,ヘッドランプ前方の短いスペースの中で衝突エネルギー吸収を完了させることをねらいとして,従来構造のバンパーフェイスのみでは不足するエネルギー吸収量を補完するために,バンパーフェイスの内部にクラッシュボックスを設定した(Fig. 17,18)。これにより,Fig. 19に示すように,腰部に傷害を与えない荷重以下かつエネルギー吸収効率の高い矩形波特性を得ることができ,デザイン思想のヘッドランプ配置で腰部の傷害軽減を実現できた。Push by HandFenderUndeformedLargeradiusof curvatureShape retentionInjuryPedestrianHeadMinimize injuryPedestrianHeadCrushableBonnetUndeformedBodyDeformedFender BracketS-shaped Fender BracketUncrushableDeformed5. 歩行者保護性能開発し・手つきの入力では,応力集中を回避し変形を抑制できる一方で,一定以上の荷重が加わると,湾曲部が変形を誘発して潰れ,頭部の傷害軽減も可能とした(Fig. 16)。

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