マツダ技報2023
44/203

―36―Fig. 3 Building Block of Sophisticated Color3.1 ソウルレッドプレミアムメタリック ソウルレッドプレミアムメタリックは,「内から発せられたような鮮やかな赤」をテーマとし,“ハイライトの鮮やかさ”と“深み”の両立を目指して開発した。ここで,“深み”とは陰影感のことであり,正反射付近の観察角度(ハイライト部)では光の反射が強く鮮やかな赤を感じるが,それ以外の観察角度(シェード部)では光の反射がほとんどなく暗く感じることである(Fig. 4)。Fig. 4 Changing Light IntensionFig. 1 Artisan Red Premium Metallic2. マツダの塗装の取り組みFig. 2 Process Integration of Topcoat3. マツダ独自の塗装技術「匠塗」Shade Highlight ルな造形と,ダイナミックかつ堂々としたプロポーションが実現されており,深みと濃厚さを演出するアーティザンレッドプレミアムメタリックによって,この造形の強さと美しさを際立たせている。 アーティザンレッドプレミアムメタリックは,これまでの匠塗カラーの開発で培ってきた多くの技術が織り込まれており,マツダが歴代こだわってきた赤の世界観の幅を広げるべく開発されたカラーである。 自動車塗装工程は,電着・シーラー・中塗・上塗などの多様な材料を塗布する塗装ブースと,それらの塗膜を硬化させる乾燥炉で構成される。このため塗装工程では,塗料中に含まれるシンナーなどの揮発性有機化合物(以下,VOC)と,乾燥炉などの塗装設備で多くのエネルギーを消費することによるCO2を排出しており,車両工場から排出するVOCの95%,CO2の60%を塗装工場が占めている。塗装工程の環境対策は非常に重要な課題であり,継続的な取り組みを行っている。 マツダでは2002年に,中塗塗装ブースを上塗塗装ブースに集約し中塗乾燥炉を廃止したスリーウェットオン塗装を開発,導入した。更に,2009年には中塗工程自体を廃止し,VOCとCO2を同時に削減可能とした世界トップレベルの環境性能をもつアクアテック塗装を開発,導入した(Fig. 2)。アクアテック塗装における中塗工程の廃止は,中塗が担っていた耐チッピング性などの機能を高機能なベースコート層,クリアコート層に分配・機能集約することで実現した(4)。このように各層ごとの機能を定義し,材料や工程を設計することで相反をブレイクスルーする塗膜設計技術を確立してきた。2012年以降はその技術をカラー開発に応用し,匠塗技術として上質なカラーを提供してきた。 匠塗とは,カラーで造形を際立たせるため陰影感にこだわり,職人が丁寧に手塗りしたような美しい塗装を量産ラインで実現する,マツダ独自の塗装技術である。発色や質感を高める場合,塗膜層を増やしていく手法が一般的であるが,多くの塗料と工程が必要となり環境性能が低下する。これに対しマツダでは, 意匠性と環境性能を両立させながら技術を積み重ねていくビルディングブロックの考え方を基盤とし(Fig. 3),塗膜数を増やすことなく上質なカラーを作り出すことにこだわっている。これまでの匠塗カラーの意匠のねらいと,意匠を実現させるための取り組みについて振り返る。 一般的なメタリックカラーのベースコート塗膜は,顔料やアルミフレークを含んだ1層の発色反射層で構成されているが(Fig. 5(a)),鮮やかさと陰影感を出すために

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る