マツダ技報2023
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Centrifugal Force ―39―Fig. 13 Conversion to Optical CharacteristicsFig. 14 Film Structure of Artisan Red Premium Metallic4.3 課題への取り組み 主要技術課題は,上質感のある内板カラーの作り込みであった。内板カラーとは,ボンネットやドアなどの蓋物の裏面や,通常蓋物で隠れているボディー内板部のカラーのことである(Fig. 15(a))。マツダの上塗工程では,まず蓋物を開けて内板部を塗装し,次に,蓋物を閉め外板部を塗装している。そのため,外板塗装時に外板カラーが蓋物の隙間から内板部に入り込んでしまうと,部分的に異なるカラーとなってしまう(Fig. 15(b))。Fig. 15 Over Spray to Interior PanelFig. 16 Spray PatternFig. 17 Spray Particle ControlExterior Color Interior Color (a) Interior Panel Exterior Color (b) Directivity (a) Over Spray (b) Transparent layer Reflective & Absorption layer Clear coat Paint Distance Reduce Over Spray 60% ③は面で光る緻密さに相当するため,粒子の大小を評価指標とした。 これらの光学特性を発現させる塗膜構造として,これまでの匠塗カラー開発で培った技術を織り込んだ。具体的には,ソウルレッドと同様,第1ベースコート層を反射吸収層,第2ベースコート層を発色透過層とした。①の特性を実現するため,ソウルレッドクリスタルで開発した高彩度赤顔料を発色透過層に投入し,②,③の特性を発現させるため,高輝度アルミフレーク,光吸収フレークを投入し,更に,分散性を向上させ黒さを増したマシーングレーの漆黒顔料を反射吸収層に投入した。また,反射吸収層でのアルミフレークの並びをより水平にするためロジウムホワイトのアルミフレーク分散技術を織り込み,緻密なアルミフレークの分布によって更なる陰影感を強調させた(Fig. 14)。 アーティザンレッドでは,入り込み部が明るくなり深みのある上質感が損なわれる懸念があった。そのため,塗装工程における内板部への入り込みを抑制する必要があった。 そこで,外板塗装時に発生しているオーバースプレー現象に着目した。塗装機でボディーを塗装する際,塗料を高速回転するお椀状のベルカップから空中に放出させることで細かく剪断し,そこで生成された塗料粒子をエアーの流れによってボディーまで運び付着させている。この時,ボディーに衝突したエアーは塗料粒子をボディー外へ運び去る気流を作ってしまう。この飛散をオーバースプレー(以下,O/S)と呼んでいる。O/Sは塗装ブースの空中を漂い付帯設備などに付着するものもあるが,一部はボディーの外板部や内板部に降りかかり意匠を損ねてしまう。そのため,内板部への入り込みを抑制するには,エアーの気流を制御し,O/S量を最小限まで減らすことが必要と考えた。 エアーによって発生するO/Sだが,単純にエアー流量を下げた場合, O/S量は増加する。塗装機から吐出される塗料粒子には,高速回転するベルカップからの遠心力と,押し出されるエアーによってボディーに対して直進方向の推進力が働き,釣鐘状の塗料パターンを形成している(Fig. 16(a))。エアー流量を下げると直進性が失われ,相対的に遠心力の影響が強くなることでより広い釣鐘状になってしまう。広いパターン中に含まれる塗料粒子は,ボディーに付着する前に推進力が減衰することで拡散したり,ボディー表面の気流に流されてしまい,塗装範囲外へのO/S量が増えてしまう(Fig. 16(b))。 ここで,その推進力が減衰してしまう前に効率よくボディーに塗料を届けるために,塗装機からボディーまでの距離である「塗装距離」を極限まで近づける方法が有効だと考えた。 O/Sが塗料粒子の運動量の減衰に起因することから,塗装距離を近づけることで減衰する前に,塗着させたいところに塗着させる発想で塗装条件を根本的に見直すことに取り組んだ(Fig. 17)。

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