7つの制御因子のうち,壁面への熱伝達(冷却損失)はその割合が大きく,これはロータリーエンジンがもつ2つの構造的な特徴に起因している。1つは燃焼室の表面積の差で,Fig. 3に示すように扁平な燃焼室形状のロータリーエンジンはレシプロエンジンよりも同じ燃焼ガスに対して冷える面積が約2倍(上死点)になる。もう1つはエンジン回転数と時間の関係で,温度が上昇する圧縮や膨張の行程時間が同じエンジン回転数でもレシプロエンジンの約1.5倍長く,冷やされる時間が長い。すなわち,表面積,時間ともにロータリーエンジンでは冷えやすく,壁面熱伝達が大きい(冷却損失が生じやすい)。 8C型では,これらの課題に対してマツダのレシプロエンジンで培った燃焼技術も融合させ,理想のロータリーエンジン燃焼を描き,13B型よりも急速燃焼化を目標とした。―53―Fig. 2 Roadmap to Goal of Rotary EngineFig. 3 Combustion Chamber at Compression Top2. 8C型ロータリーエンジンの技術目標2.1 熱効率の改善 8C型ではFig. 2のロードマップに示すように,エンジン効率に影響する7つの制御因子に対して前モデル13Bから改善に取り組んだ。2.2 全域理論空燃比(全域λ=1)の実現 供給する空気とガソリンの重量の実混合比を理論空燃比(過不足なく反応させるときの混合比)で除した比率を空気過剰率 λ という。λ=1では,触媒浄化前の排ガス中の有害な成分を低減でき,三元触媒での浄化率も向上する。 一方,出力からは λ=1よりも小さい(燃料が濃い)側で最大トルク点となるが酸素不足での燃焼となり,排ガス中のHCやCOが増加し,更に三元触媒での同成分の浄化率が低下するため,エミッション(排出ガス性能)が悪化してしまう。 また,高負荷運転では排ガス温度が高く,排気系部品の耐熱性が厳しくなる課題がある。その対策として λ=1より小さく(燃料を濃く)し,燃料の気化熱で燃焼室内の熱を奪って,排ガス温度を下げる手法があるが,前述と同様にエミッション悪化につながる。8C型では,昨今の厳しいガス規制をクリアし,クリーンな排ガスを実現するため,全域 λ=1での運転を目標とした。2.3 冷間時のエミッション改善(冷間時 λ=1) 排ガス中の有害な成分は,大半が冷間始動時に排出される(Fig. 4)。これは,三元触媒で有害ガスを浄化させるためには,触媒温度を所定値以上に上げ触媒を活性化する必要があるが,冷間始動では触媒温度が低く,有害な成分が浄化できないためである。 この対応として,点火時期を大きく遅角することで排気温度を高め,触媒に大きな熱量を与え昇温する技術がレシプロエンジンでは一般的である。しかしながら,13B型においてはプラグ周りの混合気状態の制御が難しく,点火時期を大きく遅角した状態での安定した燃焼の確保ができなかった。 8C型では,冷間エミッションを改善するために冷間時も λ=1混合気を維持しつつ,点火時期を大きく遅角した状態での安定した燃焼を目標とした。これを実現するために直接噴射(以降,直噴)による燃料配置と燃焼室内の流動を組み合わせ,プラグ周辺及び燃焼室内に最適な混合気状態を作り込んだ。Fig. 4 Emission Rate during WLTC ModeVehicleSpeed Water Temp. [℃]Exhaust Gas Temp. before Catalyst [℃]HC [g/sec)Blue:RawRed:After 20km/h10℃100℃0.02s/seRotary EngineReciprocating Engine Rate of HC [%]Rate of NOx [%]
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