マツダ技報2023
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(2)トロコイドめっき Fig. 16 にトロコイドめっき部を示す。ローターハウジング摺動部のトロコイド面には,めっき浴へ触媒を添加する高速Cr-Moめっきを新たに開発し,低摩擦化を図った(2)。―63―Fig. 16 Trochoid PlatingFig. 19 Oil Film Thickness of Apex SealFig. 20 Kinetic Analysis of Apex Seal at Low Speed3.2 レシプロエンジン構成技術の展開 8C型エンジンでは,既に確立された技術であるレシプロエンジン構成技術を水平展開することで開発期間を短縮した。以下にその技術を紹介する。(1)DIポンプ駆動 Fig. 21に燃料ポンプ駆動システムを示す。排気ガス温と未燃HCの低減,燃費改善を目的として,8C型では従来のポート噴射(PI)から直噴(DI)に変更した。Fig. 17 Apex SealFig. 18 Apex Seal Major SpecificationPlating Rotor Housing  めっき被膜の低摩擦化により,従来から行っているトロコイド表面の油溜まり形成工程の簡素化や低摩擦コーティングの廃止ができ,生産性の向上にも寄与している。(3)アペックスシール アペックスシールとは,ローターの各頂点部に設けたガスシール部品であり,摺動面(トロコイド面)との接触面を第1次気密面,シール溝壁との接触面を第2次気密面と呼び,この2つの気密面を確保することがガスシール機能の基本となる。 この各気密面を確保するための押付力は主にガス圧力によって得ている。シリーズハイブリッドの発電用ユニットである8C型エンジンは,ガス圧力の大きな高負荷運転頻度が増えるため,押付力増加によるアペックスシールの摩耗抑制が課題となった。そこで,3.1.(2)のトロコイドめっきの採用に加えて,アペックスシール摺動面の揺動範囲Lを拡大することで耐摩耗性の向上を図った。Fig. 17に示す様に,アペックスシールとトロコイド面との接触線(第1次気密面)は±φの範囲で揺動し,このφを揺動角と呼ぶ。揺動角φは基本諸元(Table 1)から決定されるため,アペックスシール摺動面の曲率を拡大することで揺動範囲Lを拡大した。しかし,揺動範囲Lを拡大するとアペックスシールの幅寸法も拡大してしまうため,摺動面への押付力増加によって潤滑状態の悪化を招いてしまう懸念があった。 そこで,アペックスシール摺動面の曲率(幅寸法)だけでなく,高さ寸法も含めた断面形状を見直す(Fig. 18)ことで各気密面の押付力/面圧を制御し,摺動面の潤滑状態を向上させた(Fig. 19)。また,第2次気密面のガスシール性向上を狙って,アペックスシール倒れ挙動も同時に抑制した(Fig. 20)。これは,アペックスシールがシール溝内で倒れ姿勢となった場合,第2次気密面は面接触から線接触へと変化するため,ガスシール機能の低下を招いてしまうことを防止する目的からである。

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