マツダ技報2023
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―73―Fig. 9 HVOF Spraying on Polished Aluminum Surface また,HVOF溶射の場合,溶射距離(溶射ガンから基材表面までの距離)が長くなると,粒子の飛行速度が低下することが分かっている(Fig. 10)。そこで,溶射距離と密着強度の関係を調査した結果,接着剤強度より低い皮膜破断する領域においては,溶射距離が長い程,密着強度が低下することが分かった(Fig. 11)。Fig. 10 E■ect of Spray Distance on Particle VelocityFig. 11 E■ect of Spray Distance on Bond Strength 以上の結果を基に,溶射距離を長く設定することにより,意図的に密着強度を落とした皮膜を製作した。下限品の皮膜は,標準品に比べて硬度が低く,気孔が占めるFig. 12 Coating Thickness and Work Deformation 製品機能(耐摩耗性)から要求される最終膜厚を確保するため,単純に必要溶射膜厚を増やすと,その分コストが増加し,処理時間の延長に伴い生産性も低下してしまう。そこで,ミニマムコストで最終膜厚を確保するには,この変形(=ロス)を最小限に抑えることが最も重要であると考え,以下の検証を行った。(1)要因振らしテストによる影響要因の絞り込み まず,溶射パラメーターの中で,要求品質特性の一つである膜厚と,仕上げ研削時に膜厚のロスを招く原因となる変形量に影響を与える要因を明確にするため,振らしテストを行い,結果を重回帰分析することにより各要因の影響度を確認した。Fig. 13に膜厚と変形量に対する各要因の標準偏回帰係数を示す。Central Portion Before HVOF SprayingPolished Aluminum Surface50μmFlat and Even SurfaceAfter HVOF SprayingCoating InterfaceRough Uneven Interface 握しておく必要がある。そこで,エンジン運転中の皮膜の剥離限界を知るためには,まず,意図的に密着強度を落とした皮膜を製作し,耐久評価により確認する必要があると考え,溶射皮膜の密着メカニズムの検証を行った。 アルミ表面をあえてバフで鏡面研磨し,その上から溶射した皮膜の断面を拡大観察した結果,平滑なアルミ表面に高速で衝突した溶射粒子が食い込んでおり,アルミ基材と皮膜の界面が凸凹形状を呈していることを確認した(Fig. 9)。これより,HVOF溶射皮膜の高い密着強度は,その特徴である超高速(約マッハ2)で飛行する硬質粒子の基材への食い込みで生じたアンカー効果によるものと判明した。面積率も高いことから,機能限界を見極めるのにふさわしい下限品質が得られていると判断し,耐久評価に供試した。耐久評価の結果から,RE運転中に皮膜の剥離が発生する機能限界を見極め,安全率を考慮した上で,密着強度の規格下限を最終決定した(Fig. 11)。3.3 ワーク変形の抑制 耐久評価による機能検証を進める一方で,試作品による溶射テストを重ね,得られた品質を詳細に測定すると,溶射によりアルミ基材が大きく変形していることが分かった。 Fig. 12に溶射前後及び仕上げ研削後の摺動面上の測定点(14点)における表面高さの測定結果を,溶射後に測定した膜厚と合わせて示す。溶射後の表面高さ(図中の■)から膜厚分を差し引いた位置(▲)が溶射後の皮膜とアルミ基材との界面となり,溶射前の基材表面高さ(◆)と比較すると,凸状(上方向)に大きく変形していることが分かる。 この状態から皮膜表面を図中の×の高さに仕上げ研削すると,変形が大きい部位では研削後の最終膜厚が部分的に薄くなってしまう。特にワーク中央部(測定点8~14)では変形がかなり大きいため,付けた皮膜の大部分を削り取らざるを得なくなり,変形によるロスが非常に大きいことが分かった。

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