OS量の拡大については,生産性向上の効果も同時に狙うため,ワーク複数枚(4枚)を同時に連続溶射する方式(Fig. 17)を採用することとし,ワーク1枚当たりのOS量を拡大するとともに生産効率の向上を図った。これと合わせてワーク背面側の空冷エアー流量を増加できるように,量産設備と治具の仕様を決定した。これらの対策を織り込むことにより,溶射変形を開発当初から大幅に(約70%)低減することができた(Fig. 18)。ロスを低減したことで,必要溶射膜厚も減らすことが可能となり,溶射コストを大幅に抑えることができた。―74―Fig. 13 Multiple Regression Analysis ResultFig. 14 Overspray vs. Temperature vs. Deformation 同様に,その他の有意な変形影響要因(溶射距離及び空冷)についても,ワークの温度上昇が抑えられる程,変形が抑制されることが確認された。(2)溶射変形のメカニズムの推定と対策の織り込み これらの結果から,ワークの主たる変形メカニズムはアルミ基材と溶射皮膜(Cr3C2系サーメット材)の線膨張係数の差に起因するバイメタル変形であると推定した。Fig. 15に示すように,溶射中にフレームによりアルミ基材が加熱され,熱膨張した状態で溶射皮膜が成膜された後,溶射後の冷却過程でアルミ基材と溶射皮膜は,それぞれの線膨張係数(α)に応じた比率で収縮しようとする。この時アルミはCr3C2系サーメット材に比べ,線膨張係数がはるかに大きいため,より大きく収縮しようとするが,溶射皮膜との界面部はアルミ表面に食い込んだ皮膜に拘束されるため,十分に収縮できない。これに対して,拘束のない背面側は大きく収縮するため,結果的にワーク中央部が上向きに凸状に変形する。Fig. 15 Mechanism of Work DeformationFig. 16 E■ect of Overspray and Cooling Air on Fig. 17 Continuous Spraying on Four WorksDeformationVariablesOverspray (mm)Gun Traverse Speed (m/min)Cooling Air Supply (L/min)Spray Distance (mm)Number of Spray Layers (cycle)Powder Feed Rate (g/min)Adjusted Contribution R2ThicknessDeformationN.S.-0.659-1.176N.S.N.S.-0.159-0.633-0.1440.8990.5640.815N.S.N.S.0.632Std. Partial Regression Coefficient これより,変形量に対しては,オーバースプレー(以下,OS)量,溶射距離,ワーク背面からの空冷エアー流量の順で影響度が高いことが分かった。 このOS量とは,ガンを左右にオシレートさせながら溶射する際,ガンの移動速度を摺動面上で一定とするため,左右に幾分,摺動面幅より余分にオシレートさせる長さのことをいうが,これを長くする程,ワークが溶射フレームの熱源に照射されない時間が長くなり,その分だけ冷却時間が増えることで,ワークの温度上昇を抑えることができると考えられる。 Fig. 14はアルミ材の平板(以下,TP)の背面に熱電対を取付け,溶射中の温度変化を測定した結果を示すが,OS量が大きい程,温度上昇が抑えられており,更に,最高到達温度が低い程,TPの変形量は小さくなることが分かった。 バイメタル変形は温度差と2種類の材料の線膨張係数の差(α(Al)-α(皮膜))の積に比例すると考えられるが,αは材料固有の物性値であり変えることはできないので,溶射中の温度上昇(以下,ΔT)を抑えることが変形抑制のポイントになる。 ΔTを低減する方法としては,溶射距離を広げる(熱源である溶射フレームをアルミ基材から遠ざける)方法も考えられるが,この場合,要求品質特性である密着強度や膜厚の低下が懸念される。そこで,重回帰分析結果より,品質への影響度が低いと思われるOS量の拡大と空冷強化により対策することとした。 Fig. 16に各要因とワーク変形量の関係を検証した結果を示す。これらにより,推定した理論どおりに変形抑制の効果が得られていることを確認した。
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