―75―Fig. 18 Coating Thickness and Work Deformation3.4 皮膜研削方式の決定 溶射後の皮膜表面は粗さが大きく,摺動面としてシール部材を滑らかに摺動させるためには,仕上げ研削で表面を高い精度で平滑に仕上げる必要がある。また,溶射皮膜は非常に高硬度な難削材であり,これを限られたサイクルタイム内で平滑に仕上げるには,粗残り(未研削部=品質不具合)が発生しない範囲で,必要最小限の取り代で研削することが望ましい。 しかし,溶射後の皮膜表面の高さは,上記の表面粗さに加え,膜厚自体の変動や溶射によるワーク変形,溶射前の摺動面のフライス加工の公差も含めて変動するため,通常の定寸研削方式(あらかじめNCで設定した寸法位置まで削る)の前提で,これらの変動を全て加味したねらい寸法を設定すると,研削代がかなり大きくなり,生産性の面から量産工程として成り立たせるのは難しい。 そこで,これまでシリンダーヘッド等の機械加工で構築してきた補正加工技術を研削工程に応用し,被研削面の高さに関係なく,常に必要最小限の取り代で研削できる定量研削の手法を新たに検討した。ドレスによる砥石径の変化や設備熱変位による研削精度の変動をNC上で補正する目的で平面研削盤内に導入した機内タッチセンサーを最大限活用することで,サイクルタイムと品質(粗残りなきこと)を両立できる方法を考案した。 Fig. 19に従来の研削方法と,今回考案した方法を示す。Fig. 19 Comparison of Grinding MethodsFig. 20 Measuring Points and Grinding Allowance 上記の結果を織り込み,定量研削方式を適用することで,粗残りを発生させることなく,必要溶射膜厚及び研削サイクルタイムを大幅に削減することができた。 従来の研削では,被研削面の反対側のカバー面を基準に定寸研削を行っていたが,この方法では前述のとおり,溶射前の加工精度や溶射膜厚のバラツキ等を全て加味した,過剰な必要溶射膜厚及び研削取り代を設定する必要があるため,溶射コストや研削サイクルタイムが過大となる問題があった。これらのバラツキに対しては,前加工精度の向上や溶射膜厚の精密制御といった対策が考えられるが,設備や工法の限界を考えると容易ではない。 そこで,前加工精度や膜厚変動によらず,研削取り代を最小化することが理想と考え,定量研削方式の適用を目指した。 定量研削の手順としては,まず溶射皮膜表面上の高さをタッチセンサーで多点計測し,研削盤基準で最も低い位置を割り出し,その位置における高さから一定の研削取り代を引いた値を研削終了高さとする。一連の平面研削を行った後,研削面の高さをタッチセンサーで再度測定し,NC上のねらい高さとの誤差を次サイクルで補正することで継続的に品質の安定化を図るとともに,研削後のワーク全高が図面公差内に入っていることを全数保証する。 この定量研削方式を適用する上での課題と,その取り組み結果を以下に示す。(1)溶射皮膜表面の凹凸に対する測定精度保証 溶射後の皮膜表面は粗く,凹凸が激しいため,その影響を受けない最適なタッチセンサーの先端径を決定した。検証テストの結果,実サイクルにて,ワーク脱着込みの繰り返し精度が十分確保できることを確認した。(2)測定ポイントの決定 被研削面の高さは前加工精度やワーク変形,膜厚バラツキにより変動する。タッチセンサーで比較的高い位置の高さを測定して定量研削の基準とした場合,相対的に低い位置で研削代が不足し,粗残りが発生してしまう。これは多点測定して最も低い位置を割り出すことで解決できるが,測定サイクルタイムを増加させないためには,測定点数を必要最小限に留める必要がある。そこで溶射によるワーク変形や前加工精度の傾向を詳細に分析した上で,Fig. 20に示す10点の測定点に絞り込み,N増しテストで粗残りが発生しないことを確認した。(3)研削取り代の決定 研削サイクルタイムを最小化するためには,粗残りが発生しない範囲で最小限の取り代に設定する必要がある。そこで,Fig. 20に示す溶射皮膜表面のRz粗さの実力値を理論上の必要最小取り代と考え,これにバラツキを考慮した上で,量産における必要最小研削代を決定した。
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