マツダ技報2023
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―79―Fig. 5 Adjustment Machining Area (8C Type)Fig. 6 Adjustment Seat of Metallic Pattern (13B Type)5.1 既存解析の適用 要因の効果を机上で迅速かつ正確に把握するため,レシプロエンジンのクランクシャフト用に開発された既存のアンバランス解析ツールをローターへ適用した。これは素材の実物を3Dスキャンしてモデルを作成し,次に加工工程と同様,基準面を起点にした寸法でモデルを削り,最後にアンバランス測定をCAE(Hyperworks)上で再現することで加工後のアンバランス量を算出するものである。 前述したようにローターではNo.1中子の寸法精度がアンバランス量へ大きな影響を与える。また,3章で述べたように調整量過多の対策として金型補整するが,その結果は機械加工の後に判明するため,確認に時間を要する。そこで,中子を3Dスキャン,モデル化し,素材設計モデルの中空部と置き換えてアンバランスを予測できると,量産移行後もNo.1中子の出来栄え検査に活用することで,鋳造・加工・バランス計測せずともアンバランス量の把握が可能で,タイムリーな金型補整が可能になると考えた(Fig. 7)。5.2 高精度化の取り組み 既存の解析では3Dスキャンした素材モデルをそのままアンバランス解析したが,ローターでは3Dスキャンした中子を素材中空部に精度良く置き換える必要がある。鋳型は注湯の際に熱膨張するが,素材は凝固収縮により常温の鋳型より小さくなるため,一般的な鋳鉄では,一定の倍率を乗じて中子を設計する。そのため,3Dスキャンした中子モデルをその倍率で除することで素材中空部を再現できるが,実際の収縮量は素材・鋳型の形状や金属の種類,溶湯圧等に影響される(2)ため,実測することでより高い精度でモデルを変換できると考えた。 そこで,中子を3Dスキャンし,それを用いて鋳造した素材の中空部をCTスキャンした。それらから作成した2つのモデルに対し,同一点と原点の距離について,中子と素材の寸法関係を求めた(Fig. 8)。この結果,中空部は1.000662で中子寸法を除すると精度良く再現でき,この近似式ベースの倍率を採用することで高精度化4. 目標設定5. アンバランス予測技術の確立Cross section of rotor Corner seal groove Side seal groove Adjustment machining area Oil seal grooves Metallic pattern Adjustment seat 整範囲を加工で除去し,重心の偏りを打ち消すことでアンバランスを調整する。調整量は除去する質量と,その偏重心距離の乗算で表されるが,加工範囲がシール溝で規制されるため偏重心距離は一意に定まる。そこで除去する質量をコントロールするが,密度と加工範囲が決まっているため,これは加工深さで調節する。その後再計測し,規格内であることを確認して次の工程に送る。 調整加工でバランス規格を満足できないワークは不良品として再溶解してその情報を素材工程にフィードバックし,金型摩耗等の経時変化によりアンバランス量や角度が変わると,Fig. 6に示すNo.1中子金型のバランス調整座を都度,補整して調整範囲内に収め続けている. 従来モデルの13B型エンジン(1)は1973年から生産を始め,新車への搭載はRX8(2012年量産終了)が最後だが,リペアパーツやリペアエンジン供給のため,現在も毎月数百台単位で製造している。鋳造工程では生産設備の維持管理に努めているものの,金型の機構や鋳造方案が旧式であることや,設備・要具の劣化は否めない。そのローターはバランス調整加工で除去する質量が最大24.8g/箇所,偏重心距離は77.5mmのため,最大1920g・mm/箇所まで調整できるが,規格を上回るワークが1割程度発生している。 8C型エンジンは,燃費改善として冷却損失改善をねらったロングストローク化により偏芯量がアップ(15.0→17.5mm)したため,ローターの径方向サイズが13%,質量も26%増加しており,素材が同精度の場合,調整前アンバランス量は43%増加する。一方,調整量もサイズアップにより偏重心距離が14%,調整加工範囲が6%拡大できるため,あと18%深く加工することで増加分をリカバーできる。しかし,それは加工サイクル延長や精度低下を誘発し,削り代としての素材肉厚の確保により重量が増加し燃費等の悪化を招く。そこで8C型では肉厚を13B型と同一の設定とすることで最大調整量を21%アップの2393g・mmにとどめ,不足分は素材ばらつき低減で補うこととした。それに加え,素材アンバランス量をより厳しく管理することで,調整加工サイクルタイムの短縮や調整後の回転バランス精度向上が可能なため,更に30%削減した1675g・mmに対しCpk1.33を満足することを本活動の目標に定めた。

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