マツダ技報2023
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―85―Fig. 2 13B Conventional ProcessFig. 3 8C New ProcessFig. 4 Surface after Grinding3.1 めっき表面観察システムの構築(めっき構造定 めっき後のワークには約150μmのクロムめっきが析出されており,この皮膜中にはエンジン性能保証のために重要な役割となる油だまり溝が存在している。この油だまり溝の大きさは後工程の内面研削加工後の品質に大きく影響する。この油だまり溝の本数は1cmあたり約1000本と,とても細かい溝であることから,高精度で観察測定できる機器の選定及び測定方法の構築が課題であった。油だまり溝の観察測定は,量産ワークに対して垂直にレンズをあてて観察する必要があるが,ワークの内側は約205mm(Fig. 5)しかなく,市販されている顕微鏡やマイクロスコープでは観察することができない。このためレンズ先端にミラーを取付けた状態で観察する仕組みのマイクロスコープを製作しトロコイド面の全ての部位を隈なく観察できる装置を設計・導入した。導入したマイクロスコープをFig. 6,7に示す。 この装置は撮影した写真(Fig. 8左)から画像解析にてめっき皮膜中の油だまり溝の数を測定できる。具体的2. めっき皮膜の機能集約3. 主要取り組み13BFig. 1 Rotor Housing8Cなめっきを形成して耐摩耗性を確保し,逆電処理による油だまり溝形成を行うことで低摩擦性を付与してきた。しかしながら環境側面では,めっき処理設備の稼働(6.5h),工程間の物流,逆電処理のそれぞれでエネルギーを要しており,カーボンニュートラルの達成に向け消費エネルギーの低減が急務であった。今回めっき液中に触媒を添加してめっきを行う高速クロムめっき工法(1)を採用することにより,めっき時間の短縮とめっき構造の改善に加え,逆電処理という追加加工エネルギーの削減を同時に解決し,その課題であるめっき速度のバラツキ制御に取り組んだ。本稿では,高速クロムめっき工法の量産導入にむけた活動内容について報告する。 ローターハウジングはアルミ材の内面に鉄板層を鋳込貼付した後,エンジン加工工場にてトロコイド面の内面研削加工を行い,めっき工場に搬入し硬質クロムめっきを行っている。従来の13B型ローターハウジング(Fig. 1左)では,硬質クロムめっき処理後の内面研削後に,再度めっき工場に搬入し逆電処理にて油だまり溝の形成を行うことでエンジン性能を確保してきた。13B型の加工工程をFig. 2に示す。これに対し,8C型ローターハウジング(Fig. 1右)で新たに採用した高速クロムめっき工法は,めっき液に触媒を添加し,電流密度を高めてめっき処理することで,めっき処理速度を速めると同時に皮膜中に油だまり溝を形成させることができるため,めっき時間の大幅な短縮かつ油だまり溝形成のための追加加工の廃止が可能となるめっき処理法である。8C型の加工工程をFig. 3に,13B型及び8C型の内面研削後の写真をFig. 4に示す。 一般的にこの工法では,めっき膜厚とめっき構造がバラツキやすいことがわかっており,めっき膜厚とめっき構造のバラツキを低減することが量産化の課題であった。課題解決に向けて,めっき構造の定量化をまず行った。次にねらいのめっき膜厚とめっき構造を実現するための工程因子の制御(めっき液成分管理,めっき液流量制御,電極形状の制御)を行った。量化)

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