マツダ技報 2020 No.37
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―93―5Å2.1 計算コード・計算条件 MD計算には,サンディア国立研究所のLAMMPS(6)を使用した。原子間ポテンシャルは化学反応を考慮するために電荷移動型のボンドオーダポテンシャルであるReaxFF力場(7)を適用した。DLCのモデル化にはメルトクエンチ法を用いた。密度一定の状態で8000Kから300Kに冷却することで非晶質状態をモデル化する。Fig.1に摩擦解析に用いたモデルを示す。突起状のDLCモデル化し上下に配置する。接触をモデル化するため上下の突起は垂直方向に5Åオフセットさせる。下突起の下部は固定し,上突起の上部をz-y方向に固定して,x方向に50m/sで移動させ接触摩擦をモデル化した。温度は300K,時間刻みは0.1fsで計算を実施した。摩擦力は下突起の固定部にかかる -x方向の力の合計から算出す る。Fig. 1 Simulation Model for Friction Interface between DLC Asperities2.2 実験条件・分析条件 計算解析の妥当性検証のため,摩擦摩耗試験を実施した。実験装置の概要をFig. 2に示す。リングオンディスク形式で定常回転するディスクに対して,リングに荷重を加えて押し当てる。このとき,リングに働く回転反力から摩擦力を計測する。潤滑状態はドライの無潤滑であり,リング及びディスクはSUS440C基材の摺動面にDLCを成膜したものを用いた。DLC同士の摩擦試験を実施し,摩擦係数及び焼付き耐荷重を評価した。なお焼付き耐荷重は試験片温度が急激に増加する点で判定した。Fig. 2 Schematic of Ring-on-Disc Friction Tester and  また,摺動前後のDLC表面の構造変化を同定するために,ラマン分光分析を実施した。摺動試験後にディスク表面に形成される摺動痕と非摺動部を測定し,ラマンスペクトルの変化から摩擦による構造変化を評価した。一般的にDLCのラマンスペクトルはGピークとDピークの特徴的なピークが現れる。各ピーク強度の比ID/IG比やピーク位置の変化で構造変化を同定する(3)。Images of SUS440C Test Piece with DLC Coating3.1 水素非含有DLCにおける表面分子構造が摩擦特 水素非含有DLCについて,DLC表面の原子構造が摩擦特性に及ぼす影響を明らかにするために,ダイヤモンド構造に近い表面構造をもつDLC(d-DLC)とグラファイト構造に近い表面構造をもつDLC(g-DLC)をモデル化し,摩擦特性の比較を行った。Fig. 3にd-DLCの摩擦プロセスのスナップショットを示す。d-DLC同士が接近すると摩擦界面で炭素-炭素結合(CC結合)を形成する凝着が発生した(Fig. 3(b))。その後,せん断によって界面のCC結合を解離しながら摩擦が進行する様子が観察された(Fig. 3(c))。Fig. 4にg-DLCのスナップショットを示す。g-DLCは摩擦界面でのCC結合は形成されず,表面が形状変形しながら滑らかに摩擦が進行する様子が観察された(Fig. 4(b),(c))。この時の摩擦力を比較した結果をFig. 5に示す。d-DLCは凝着発生後に摩擦力が増加し,100nN程度となった後に減少する。これは,摩擦によるせん断仕事が,界面のCC結合(347.7kJ/mol)Periodic boundary conditionz-y direction fixed50 m/sDLCDLCFixedz-y direction fixedFixedzzxyLoadRingDiscSpacerRotationRingDisc2. 計算解析及び実験条件3. 結果・考察カーボン(a-C),水素を含まず結晶構造の割合が大きいテトラヘドラルアモルファスカーボン(ta-C)が存在する(2)(3)。DLCの低摩擦や摩耗抑制のメカニズムとして,DLC表面のグラファイト化や相手材への移着(4),DLC表面への水素基または水酸基終端(5)などが提言されている。しかし,境界潤滑の摺動面をその場観察することは難易度が高く,原子レベルの構造変化や化学反応を伴う現象解明が困難であるため,詳細な摩擦メカニズムは不明な点も存在する。また,先述したように内燃機関の摺動面は数十MPaを超える面圧が発生すると同時に,10m/sを超える摺動速度をもつため,この過酷な条件に耐える信頼性をもっていなければならない。本研究は,分子動力学法(MD)を用いたDLCの摩擦解析とリグ摩擦試験及び表面分析を実施し,原子レベルの構造変化や化学反応が摩擦特性に及ぼす影響を解明し,解明した特性から内燃機関の摺動面の摩擦低減及び信頼性確保に有効な構造を導くことを目的とする。性に及ぼす影響

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