マツダ技報 2020 No.37
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―9―3.3 エレメント・デザイン フロント・エンドはマツダのファミリーフェースを踏襲しつつ,端正で精悍な表情を創った。それ自体が彫刻作品であるかのように,より鋭く深い造形に進化したシグネチャー・ウイング(ラジエーター・グリル外周の縁取り)により,強い前進感を表現した。三角形のブロックを交互に上下反転させて配置したラジエ-ター・グリルは,見る角度や光の当たり方によってさまざまな表情の移ろいを見せるよう工夫した。 前後のランプは,ともに極限まで薄くデザインし,精緻に造り込んだシリンダー形状が際立つ発光表現と相まって,アート・ピースとしての美しさと,マシーンとしてのメカニカル感を表現した(Fig. 7)。Fig. 5 Design Theme “Charge and Release”Fig. 6 Body SurfaceFig. 7 Front and Rear Detailsめ,書道の筆づかいの動きである「溜めと払い」をCX30の造形テーマに規定した。これはノーズからフロント・フェンダーにかけて溜めたエネルギーを,後方に向けて拡散して前進する動きである(Fig. 5)。 ボディー面は明確な折れ線を使わず柔らかな面の表情のみでこの動きを構成し,クルマの動きとともに周囲の景色がS字型に揺らめきながら映り込む「移ろい」を表現した。このようにCX30は,アートとしての美しさと生命感を感じさせるデザインを創生した。 一方でS字型の映り込みの実現は困難を極めた。このためにはフロントドア前端の面を上向きに傾けることが必要になるが,ここに収められているドアヒンジを傾けることはドアの開閉性能の悪化につながる。そこでエンジニアにこのねらいを説明し腹落ちしてもらうことで共創活動につなげた。開閉性能を犠牲にせず,構造の見直しや隙を限界まで詰めることで,この魅力的な映り込みを実現している。 また,この「移ろい」の表情には極めて微細な面の変化が必要であり,量産に当たってはそれを表現し切るだけの極めて精細な鉄板面・樹脂面の加工精度が求められる。MAZDA3の開発でエンジニアと工場メンバー,サプライヤー様らが自ら取り組んだ「面のアーティスト活動」を進化改善し共創することで,鉄板や樹脂の成型歪みの問題を克服し,更なる高い精度の美しいボディー,ドア,バンパーなどを産み出した(Fig. 6)。 また瞬時に点灯したのち,余韻を残すかのように徐々に消えていくディミング・ターン・シグナル(光源:LED)を新たに開発した。拍動を感じさせる温かみのある点滅によって,マツダらしい生命感を表現している。この発光表現はサプライヤー様や社内エンジニアとの共創により,LEDの調光制御を開発し実現に漕ぎつけた。ターンシグナル作動時のメーター内のインジケーターと作動音も同様のリズムで点滅・鳴動するようチューニングを施し,心地よい統一感を造り込んだ。 アルミホイールではセンター部の強い凝縮感と,外側へと広がるスポークのコントラストによって,しっかりとボディーを支える力強さを表現した。3.4 空力性能 新世代商品群では卓越した空力性能に取り組んだ。空力の改善は燃費性能,すなわち世界的に重要なCO2削減につながるのみならず,操縦安定性の改善によりマツダの目指す『走る歓び』にも直結するからである。ただし空力を優先する余りデザインを悪化させる訳には行かないため,エンジニアと共創し高い空力性能と美しいデザインの両立のためのブレークスルーにチャレンジした。一例として二重のエアカーテンをもつフロントタイヤ・ディフレクターは,まさに二人三脚とも言える共創の成

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