マツダ技報 2020 No.37
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―20―ssol i①itenKygrenecEngine cooling airBrakes cooling air①Separation①SeparationThe vehicle tipCabin②MixtureTire houseSeparationTireEngine room -③Wakerear end①SeparationUnder floor②MixturetunnelSeparation Vortices Wake VorticesMixing Vortices2.1 風流れ制御の考え方 私たちはこれまでの研究により,Cd値を低減するためには風流れの運動エネルギー損失低減が重要であり,これを発生させる渦は,大きく三つに大別できると考えた(2)。一つ目は,物体からの剥離により発生する“剥離渦”,二つ目は異なる流れが合流して発生する“混合渦”,三つ目は物体後方で上下左右のそれぞれの流れが合流して発生する“後流渦”である。車両周りの各部で生じる(Fig. 1)これらの渦を小さくすることで風流れの運動エネルギー損失を小さくすることができる。Fig. 1 Kinetic Energy Loss at Each Part of Vehicle(2)2.2 CX30における空力とデザインの両立課題 本研究ではタイヤ周りで発生する剥離渦と混合渦に着目し,技術開発を行った。その理由は車両全体の中でも,タイヤ周りの渦に起因する運動エネルギー損失の寄与度が大きいためである。一般的にも車両周りで発生する空気抵抗のうち,20%~30%はタイヤに起因するものだと言われており(3),SUVなどの車高が高い車型では,タイヤの露出量が増えるため,その影響が大きくなる。更に,CX30では大胆なSUVの力強さを表現したいデザインコンセプトを実現するために,ボディー外側へタイヤの露出面積を拡大する造形が求められた。この露出面積の拡大はタイヤに当たる風量を増大させ,タイヤ周りの渦を更に強めてしまう。以上より,CX30の空力とデザインを両立するための最大の課題は,タイヤ周りの渦を低減できる新たな制御技術を確立し,デザイン自由度の高い開発初期段階で空力とデザインを両立できる造形を共創することであった。 本稿では,この課題解決に向けて取り組んだタイヤ周りの現象解明に必要なCFD技術の構築(2章),それを用いた制御技術の確立(3章),CX30での共創活動(4章)について報告する。3. タイヤ周りの現象解明をサポートする 3.1 CFD技術開発の検討アプローチ 回転を伴うタイヤ周りの現象を再現するためのCFD技術については,近年盛んに研究が行われ,タイヤ周りの風流れの総圧やCd値の予測精度について議論している(4~7)。CFD技術は年々高度化しているが,回転を伴うタイヤ周りの流れ場には依然として誤差が残っており,研究は途上にある。CFDの精度を更に高め,現象解明や商品開発に応用していくためにはCFDと実測値の間に誤差が生じる要因を詳しく理解することが重要となる。これは,誤差の要因が判っていれば,CFDの精度を高めるための課題を明確にできることに加え,誤差要因とその程度を考慮に入れた実車の性能予測やスペック決定ができるためである。そこで,本検討ではCd値や風の運動エネルギー損失量の精度検証に加え,運動エネルギー損失量に寄与する風流れの中間特性値を定義し精度検証を行うことで,CFDと実現象の違いを詳しく理解する。 これまでの研究により(2),タイヤ周りには上部と下部にそれぞれ特徴的な渦が存在することがわかっている(Fig. 2)。私たちは,その発生・発達過程を分析することで,これらの渦は“タイヤ正面部の圧力上昇により,風がホィールハウス内とタイヤ側部に曲がる現象”と“ホィール開口部やホィールアーチ隙に風が流入・流出する現象”の二つにより形成されていると考えた(Fig. 3)。そして,「タイヤ正面部の圧力」と「タイヤ側面開口部の流入出量」を運動エネルギー損失量に寄与する中間特性値と定義した。Inlet flowInside the wheel(a)Lower part of the tireFig. 3 Process of Causing Vortices around TireProcessIn front ofthe tireBlue : Blow from the wheel archPink : Blow from the wheel Outside the wheelGreen : Separation flow from the tire sideRed : Blow from the wheel arch(b) Upper part of the tireFig. 2 Flow Streamline around TireResultVortices of upper part of the tire Vortices of lower part of the tire CFD技術グやデザインに対して制約を与えることになってしまう。従って,商品開発の重要課題はデザインを始めとした他機能と両立できる形状を導出することにある。本稿では魂動デザインと空気抵抗低減を高次元で両立させるために取り組んだCFD技術開発とタイヤ周りの風流れ制御技術開発,及びこれら技術を用いてデザイナーと共創したCX30の空力開発の実例について述べる。2. 新世代SUVの空力開発課題

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