マツダ技報 2020 No.37
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―36―Fig. 10 O■-Road Traction AssistFig. 11 Summary of Vehicle Integrated Control System3.2 AWD制御ロジックの進化 i-ACTIV AWDでは,ドライバー操作情報及び車両情報を基に推定した車両状態に応じて,最適なAWDトルクを演算している。新世代i-ACTIV AWDでは,より緻密な車両状態の把握とリニアなトルク配分を目指して,以下の新規ロジックを構築した(Fig. 12)。①4輪接地荷重推定ロジック 加減速・旋回時の4輪の接地荷重を演算する。②エネルギー損失最小制御ロジック 4輪の接地荷重に応じて,タイヤのグリップ性能を最3.進化をささえる制御技術Fig. 12 Summary of AWD Control Logic4.進化をささえるハードウエア技術 上述の車両挙動を実現するためには,時々刻々と変化する車両状態を正確に把握し,ドライバーのアクセルやステアリング操作と連動して遅延なく最適なAWDトルクを演算し制御することが必要である。以下に進化した制御技術を紹介する。3.1 AWD制御システムの進化 従来のi-ACTIV AWDではAWD専用ECUを有しており,エンジンを制御するパワーコントロールモジュール(PCM)と独立で構成され,PCMからCAN送信される情報を基にAWDトルクを演算していた。新世代 i-ACTIV AWDでは,このAWD専用ECUをPCMへ統合(Fig. 11)。AWDトルク演算に必要な情報のCAN送信による遅れを排除することで応答速度を向上させるとともに,GVCと共通の車両運動モデルを用いた新たな統合制御システムを構築した。大化するようAWDトルクを最適化する。③GVC協調旋回制御ロジック GVCと協調してGVC作動中のAWDトルクを維持するとともに,旋回状態に応じてAWDトルクを増加する。 これにより,旋回時の操舵応答性と安定性との両立を図ると同時に,加減速時におけるタイヤ伝達効率最大化とドライバー意図に応じた挙動コントロール性を実現した。 上述の車両制御を実現するためには,AWDトルク配分の応答性と精度の向上が不可欠である。また,実用燃費向上のためには,個々の関連部品はもちろんのこと,AWD全体のシステム効率を上げることが重要である。以下に進化したハードウエア技術を紹介する。4.1 トルク配分範囲の拡大と応答性・精度の向上 新世代i-ACTIV AWDでは,システムとしてトルク配分制御範囲の拡大,応答性・精度の向上のため,前後駆動系に約1%の差回転を発生するギヤ比を新たに設定した(Fig. 13)。 多板クラッチ式AWDユニットでは,その締結力により回転数の高い側から低い側へトルクが配分される。つまり前後輪の回転差が大きい場合は正確なトルク配分がしやすい一方,平坦路での定常走行など前後輪の回転差が少ない場合は正確なトルク配分が難しい状況となる。そこで,パワーテイクオフ(PTO)とリヤデファレンシャルユニット(RDU)にギヤ比差を設定することで,常にAWDユニットの前後に差回転が生じる状態をつくり,より正確で確実な後輪トルク配分を可能とした。また,差回転によってユニット内部のパイロットクラッチをスタンバイ状態に維持することで,トルク配分の応答速度を従来比で約1/2に改善した(Fig. 14)。

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