マツダ技報 2020 No.37
50/138

―43―Fig. 12 Track Accuracy of Autonomous Driving Device 悪路耐久試験は,一般的なお客様の使用過程から想定した目標となるダメージを規定している。車両の信頼性を早期に確認する試験方法であり不具合の発見が遅れると商品開発に混乱をきたしてしまう。自動運転制御による繰り返し精度を向上させたことで主要なコンポーネントを歪ゲージと加速度センサーで計測した結果から算出した1kmあたりのダメージは,従来の試験方法に対し2倍近くに設定できており耐久走行期間が半減できた。ピーク荷重も既存のテスト方法と大差がないことを確認している。過去の耐久試験実績とも比較して想定外の問題は発生せず同等といえる劣化現象が,ねらいの距離で再現することから適用可能の最終判断ができている(Fig. 13a-b-c)。4.3 運用方法と改善 この自動運転装置を導入し耐久試験に適用させるには,運用方法・手順など,さまざまな事項の整備が必要であった。耐久試験は,一定期間の走行が必要でその運用には,日々装置を脱着する作業が発生する。精度と安全に関わる部分であり影響度を理解して作業手順,作業者の認定基準,設備の改良が必要になった。例えば,アクチュエータを車両に固定することも作業者の力加減の違いを考慮して改善する必要があった。ペダルロボットの固定は,脱着を容易にするために運転席シートのクッション上にプレートを置いてシートクッションにラチェットバンドで締め付けている。この場合は,シートクッションが変形するため締め付けの力加減が難しい問題が発生した。ベースプレートにガイドを追加して解消した。他にも自車の位置情報を補正するIMUのセット位置は,悪路走行の振動で角度がある閾値を超えると,ねらいの走行ラインにならない。車の評価への影響を最小Fig. 11 Turning Control for Autonomous Drivingた。この点が自動運転装置を適用する上で最も苦労した所である。 Fig. 11のように直線から旋回へ移行する自動運転の軌跡をスムーズに走行させるためには,ステアリングロボットとアクセルロボット,及びブレーキロボットの設定をチューニングする必要がある。設定変更の数値による変化代から旋回に必要なステアリング操作の開始する位置を車速に応じてシステムが先読みして制御するように旋回判定区間までの距離と時間のパラメーターを変える。減速開始が遅れるとオーバースピードでコーナーに進入して走行ラインが規定した逸脱量を超えて緊急停止してしまう。 逸脱量を最小化するため制御パラメーターを変更するが,車種によるステアリングギヤ比の違いで実際のステアリング操作量は変化する。更に試験中に遭遇する雨天など環境変化による路面状態の変化や車両側の性能の変化も加味する必要がある。例えば,車のブレーキ性能をコントロールする摩擦材は,冷間と温間で制動距離に差がある。また,燃料が減ってきても車両が軽くなるため減速完了が早くなる。試験開始前には,燃料を満タンにする試験条件とし影響を最小化した。合わせて,減速度制御+自己学習モードによる対策ソフトウェアの追加製作をユニットメーカーへ依頼し安定する方向に改善した。事前準備に必要な作業は,ステアリング切れ角と回転半径の対応テーブルを作成することでシステムは,走行ラインに追従するための回転半径をリアルタイムで計算して回転半径に対応したステアリング切れ角で制御する。最終的には,ドライバーの運転よりも早めに減速開始する安全第一の設定で対応するが,各車ごとの細かいトライ&エラーによる設定が不要となった。基本パラメーターの設定は,ファイルでシステムに保存できるため車種に応じてファイルを読み込む手順により悪路耐久試験として十分な走行精度と応答性を得ている。 最終的な位置の逸脱量は,適用させた悪路耐久試験コースを10周して規定した位置に対する逸脱量の精度を検証した。結果は,悪路の200m直線部で逸脱量は5cm以下である。逸脱量が大きくなるのは,ステアリングの操舵角で180°以上を必要とする旋回走行の後半部分で50cm以下の実力を有している(Fig. 12)。なお,逸脱量が増える範囲においても繰り返し精度は,直線部と同等の5cm以内になる。このレベルは,適用した耐久試験の精度として極めて良好であり,熟練ドライバーの運転でも長時間の再現は困難と言える高いレベルにある。

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る