マツダ技報 2020 No.37
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―46―2.1 人と音の関わり 人にとって音は,記憶や経験と結びついて感情に作用する機能と,危険・力の大きさ・距離など情報を得る機能に分けることができる。人は,音から情報を得る機能と,視覚や触覚からの情報,及び自身の記憶と合わせて,次の行動に活かすことを無意識に行っている(1)。 例えば,雪道を歩行している際に,視線は前を見て周囲の情報をつかむのに活用し,足からの触覚や聴覚は,雪を踏む感触と,発生する音から,路面の状態が凍結していて滑りやすいのか,積雪状態で滑りにくいのかを判断し,次に踏み出す一歩の歩幅や,足の運び方を自然と調整している。 このように音は人にとって,次の行動に必要な情報の1つである。2.2 運転と音との関係 車の運転は,走る,曲がる,止まるをアクセルペダル,ステアリング,ブレーキ操作によって行っている。 「走る」の中には,加速・減速・定常がある。 「加速」「減速」時は,アクセルペダル操作と,車両加速度の関係や,アクセルペダル操作時の重さとストローク(踏力と作動量),運転姿勢を支えるシートなどが関係しており,これらを連携して造り込むことで,ドライバーにとって意のままに走る車を目指し,開発を続けている。 上記に加えて,先に述べた人の行動に不可欠な音を制御することで,更に「意のままに」の価値が深化し得ると考えた。3.1 力の大きさを伝える音 音で届けるべき情報は,ドライバーが直接コントロールしている原動機のトルクの変化と考えた。この情報を,ドライバーが遅れなく受け取ることで,次の操作に活かせると考えた。 トルクは,加える力と置き換えることができる。身の回りで起こっている加える力の差と,音の変化に着目し考察した。 私たちは,音だけで力の差をイメージすることができる。例えば遠くから聞こえる水の流れる音から,水の量や勢いのような「力の差」をイメージすることができる。この音の差を,音の発生メカニズムから説明すると,自然界の音は基準となる音(基音)と倍音で構成されておFig. 1 Sound Characteristic Change of Energy Nature3.2 音の因子に関する検証結果 加える力の大きさと,音の因子の関係を確かめるために,サンプル音を視聴して,評価点をつけてもらう方法にて,検証を行った。 シンセサイザーにて発生させたトロンボーンの音をベースとして使用し,サンプル音の作成を行った。(Fig. 2)この音を基に周波数帯を3水準,聞こえる周波数の数を6水準,音の大きさを3水準とし,サンプル音源を作成した(Table 1)。 周波数帯の3水準,及び聞こえる周波数の数6水準については音の大きさを一定とし,各因子の変化だけで評価できるようにした。また音の大きさ3水準については,各周波数同士の音の大きさのバランスは変えずに,全周波数一律で音の大きさを上げ,音の大きさのみを評価できるようにした。Fig. 2 Contour Diagram of Sample Sound3.音で伝える情報と,その要件2.運転と音 なお,本研究における被験者実験は社内の倫理規定に準じ,事前審査を経て行った。また,実験内容について被験者に対し事前に十分な説明を行い,インフォームドコンセントを実施した。り,入力する力が増えるほど,全体の音圧レベルが増え,聞こえる倍音も増えるようになる。つまり,力と音の関係は,入力する力が大きいほど①低周波領域の,②聞こえる周波数の数が多くなり,③音圧が大きくなるといえる(Fig. 1)。 ヘッドホンによる試聴で評価を実施し,印象の偏りを避けるため20歳代~50歳代までの10名の被験者に,順不同でサンプル音を提示し,各サンプル音の印象を回答してもらった。力が大きいと感じるを5点,力を感じな

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