体FEモデルを作成した。それらの人体FEモデルを用いて衝突シミュレーションを行い,各モデルでのシートベルト及び乗員挙動を比較分析した。本研究の最終目的は,設定した上記3因子について腸骨上でのベルトずれ上がりへの寄与度を調べ,骨盤状態のコントロールに最も重要な因子を特定し,対応技術を構築することである。―51― Fig. 2 XRay Facility and Situations of XRaying2.1 研究概要 研究概要のフローチャートをFig. 1 に示す。シートベルトの掛かり方に影響を与える骨盤状態を決める因子として,(a)骨格アライメント(脊椎形状と骨盤角度),(b)骨盤形状(ASIS角度),(c)骨盤大きさ(ASIS-恥骨結節間距離)の3因子を設定した。各因子について,年齢・性別・体格による個体差の傾向を調べ,各被験者データ分布から代表値を選定し,その数値を再現する人Fig. 1 Research Outline of Pelvic Orientation2.2 研究方法(1)X線撮影及び研究倫理 シート着座時の骨格状態をX線で撮影するため,アクセラシートを取り付けた撮影治具を作製した(Fig. 2)。着座姿勢は,シートバック24°(設計標準),シートクッション座面21.5° に固定し,シートスライドは自由に調整できる構造とした。撮影時,被験者はフットレストに足を置き,普段の運転姿勢で着座した。また,画像上の脊椎部に上肢骨格が重ならないよう,長さ・高さ調節可能な手置き棒に手を乗せて撮影した。1. はじめに2. 人間研究 市場での死亡重傷低減を目指し,医工連携による人間研究を推進しながら,得られた知見を基に万一の事故の際に人命を保護するための安全技術開発に取り組んでいる。市場事故において,腹部傷害は受傷割合こそ少ないものの一度受傷すると内臓や内膜の創傷により重傷化しやすく,死亡重傷低減の上で重要な傷害と位置付け,研究を進めている。傷害発生の一因として,シートベルトの骨盤からのずれ上がり現象が考えられ,着座姿勢や骨盤状態,ベルトの骨盤への掛かり方が重要となる。これまで,臨床医学の観点から座位での骨格アライメントを調べた研究(1-3)や自動車乗員の特徴(年齢,身長,体型等)と骨盤状態,ベルトパス,衝突時の乗員挙動の関係を分析した研究(4-8)などが報告されている。更に,将来の高度自動運転環境における着座姿勢の多様化を想定した乗員拘束の研究報告(9-12)もあり,世界的に注目されている領域と言える。今回,マツダは日本の健常者ボランティアを対象に,自動車シート着座時の骨格アライメントと骨盤状態にどの程度の個体差が存在するか分析した(7)。また,それらの個体差が衝突時のシートベルトずれ上がりにどのような影響を及ぼすかについて解析した。被験者データを基に個体差を反映した複数の人体FEモデルを用いて衝突時の挙動をシミュレーションし,シートベルトおよび乗員挙動を経時的に分析,シートベルトのずれ上がり現象に最も寄与する因子を特定した。このような研究から,乗員の安全性を確保する技術として,①常時,脊椎の自然なS字・骨盤前傾を維持するシート,②常に適切な角度で骨盤を拘束できるシート内蔵式シートベルトラップアンカー構造を確立した。更に,③衝突時の乗員前進を抑制し,シートベルトによる乗員への入力荷重を分散させ,より耐性の高い人体部位(下肢骨格部)を拘束するニーエアバッグを乗員の安全性確保に必要な技術として加え,MAZDA3に導入した。 本稿では,上記の人間研究により得られた知見を報告するとともに,①~③の技術について紹介する。なお記載の人間研究については,インパクトバイオメカニクス会議体IRCOBI (International Research Council on Biomechanics of Injury) にて報告済みである(13-15)。 撮影は,山口大学医学部附属病院放射線部が所有する装置(SONIALVISION Safire17 SHIMADZU)を使用し,座位・立位について頸椎から骨盤までの範囲を撮影した。本研究の手順は全て,山口大学及びマツダ(株)により決定され,双方の研究倫理委員会にて承認を得た上で実施した。被験者には十分な説明を行い,本人の参加同意を書面にて取得した。(2)被験者 2.1節で述べた骨格アライメント及び骨盤形状,大きさの計測では計113名の被験者データを取得した。内訳は,男性56名,女性57名,であった。それぞれの年齢・身長・BMI平均は,男性が43歳,171.3cm,25.5kg/m2,女性は47歳,154.8cm,22.2kg/m2であった。
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