マツダ技報 2020 No.37
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(3)X線データ計測及び分析 2.1節で述べた各項目の計測部位をFig. 3 に示す。得られた全被験者のX線撮像データについて,骨格アライメント,骨盤形状,骨盤大きさの計測を行い,個体間ばらつきや年齢・身長・BMIとの相関性について調べた。計測方法の詳細を,以下に記載する。a.骨格アライメント(脊椎形状と骨盤角度) 脊椎及び骨盤に関して,6項目:頸椎角度(CC),胸椎後弯角(TK),胸腰椎後弯角(TLK),腰椎前弯角(LL),仙骨角度(SS),骨盤角度(PA)の角度計測を行った(Fig. 3a)。b.骨盤形状 ラップベルトが掛かる位置に当たるASISの形状は,角度で表現した。ASIS頂点よりその形状に沿ってラップベルト幅40mmの半分に相当する20mm幅ずつ斜線を引き,その2斜線の成す角を計測した(Fig. 3b)。ASISの正確な位置は,山口大学の整形外科医にX線撮像から判断していただいた。c.骨盤大きさ 計測部位としてはさまざま考えられるが,本研究ではラップベルトの骨盤への掛かり方を調べるという目的から,ASIS-恥骨結節間の距離を骨盤大きさと定義し,その距離を計測した(Fig. 3c)。(4)人体FEモデル作成 a-cの各因子について,個体差分布から90パーセンタイル,50パーセンタイル,10パーセンタイルを代表値として選定し,それぞれに相当する数値データを人体FEモデルに反映させた(Fig. 4)。モデルは,THUMS ver.4(Copyright 2015 © TOYOTA MOTOR CORPORATION)のAM50体型モデルをベースとして用い,被験者の着座状態を再現するよう修正を加えた。修正は,Oasys PRIMERソフトウェア(ARUP, UK)上で強制変位や部分的なモーフィング手法を組み合わせて実施した。(5)衝突シミュレーション解析 作成した人体FEモデルを用いて,JNCAPフルラップ前面衝突(衝突速度56km/h)のシミュレーションを行った。車両内装モデル及び人体FEモデルは,挙動の妥―52―Fig. 4 Image of Modification for THUMS Pelvic Size当性検証を行った上で用いた。シミュレーションは,運転席に着座させた人体FEモデルをプリテンショナー&ロードリミッター機構付シートベルトで拘束し,手はステアリング,足はアクセルペダル及びフットレストに配置し行った。また,インパネ下部にニーエアバッグを取り付けた内装モデルとした。 シミュレーション結果から,衝突時のラップベルト及び乗員挙動を解析した。ラップベルト挙動は,ASISに対するベルト初期位置からの腸骨上での最大ずれ上がり量を調べた。また,初期位置からの最大腰前進量及び最大腰回転角度も計測し,3モデル間での挙動を比較した。2.3 結果及び考察(1)個体差分析① 骨格アライメント 取得した113名分のX線撮像から,自動車シートに着座した際の骨格アライメントは腰椎前弯を伴った骨格全体が緩やかなS字を描くタイプ(以下,S字タイプ)と腰椎後弯・骨盤後傾による骨格全体が後弯したタイプ(以下,後弯タイプ)の2つに大別されることが明らかとなった(Fig. 5a)。各タイプの割合は,S字タイプn=55,後弯タイプn=58でほぼ1:1を占めることが分かった。また骨格各部の角度ばらつきを調べると,胸椎後弯角は個体差が小さく,一方で骨格の上下部,特に腰椎前弯角及び骨盤角度の個体差が多少大きいことも分かった(Fig. 5b)。Fig. 5 Analysis of Individual Di■erences in Pelvic Angle 年齢・身長・BMIと各角度との相関は見られなかったが,BMI30以上では骨盤角度は小さくなる(骨盤前傾)ことが確認された(Fig. 6赤枠部分)。これらの分析結果Fig. 3 Measurement of Pelvic and Lap Belt Factors

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