マツダ技報 2020 No.37
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―54―Fig. 12 Constraint Scenario of Vehicle Occupants(1)骨盤前傾・脊椎S字を作り出すサブマリン防止シート 被験者データに基づく衝突シミュレーションでも,骨盤が後傾する程ラップベルトのずれ上がり量は大きくなることが確認された。加えて腰前進量や腰回転角度の増加(より後傾)も見られ,傷害低減には骨盤前傾及び脊椎の自然なS字を作りその状態を維持するシート構造が必要となる。マツダは,シートクッションとシートバックの工夫により,それを実現するシートを設計した。16名の被験者に対するX線での骨格アライメント分析では,旧来と比較してPA平均5° 前傾の効果が確認され(Fig. 13),より適切な運転姿勢を作り出せるだけでなく,直立歩行時に近い骨盤状態を創出し,ダイナミック性能の向上も実現させ「人馬一体」を感じられるクルマとなっている。Fig. 13 Change of Skeletal Alignment between Two (2)シート内蔵式シートベルトラップアンカー構造 研究結果から,人体骨盤は角度だけでなく形状や大きさにも個体差があり,多様な骨盤状態が考えられる。骨盤向きにばらつきが生じると,ラップベルトの掛かり方にも個体差が生まれる。掛かりが浅くなると,拘束時のベルト荷重は骨盤に対して垂直方向と水平方向に分散され,ベルトのずれ上がり成分を生じさせ,また骨盤後傾をより促進する結果となり,衝突時の傷害発生リスクを高めることになる(Fig. 14a)。このずれ上がり成分を減らし,どのシートスライド位置でもベルトがずれにくくするため,前席シートベルトのラップアンカー部をシート上に取り付ける構造とした。衝突ダミーを用いた実機での効果検証により,腰の後方への回転が抑制されていることを確認した(Fig. 14b)。Fig. 10 Analysis of Lap Belt and Pelvic Kinematics Using Three HBMs with Di■erent Pelvic SizeFig. 11 Comparison with Contribution Level for Each Factor Involved in Pelvic Orientation3.1 腹部傷害低減を目的とした乗員保護シナリオ マツダが考える乗員保護の姿は,以下2点である。①  拘束装置の効果を最大限引き出すため,乗員の適切な姿勢(骨盤前傾,脊椎の自然なS字)を維持する(Fig. 12a)。②  衝突時の乗員の前方移動を抑制し,入力に対して虚弱な部位での損傷を最小にするため,人体耐性の高い部位へ荷重を分散させ入力バランスを最適化する(Fig. 12b)。 この基本的なシナリオに,第2章の人間研究による知見を組み入れ,腹部傷害低減の対応技術として下記3つの安全技術をMAZDA3へ導入した。Seats3. 安全技術開発盤状態をコントロールし,シートベルトの骨盤からのずれ上がり現象への対応技術を構築する上で,骨盤角度が最も重要であると言える。

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