マツダ技報 2020 No.37
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(3)腰前進量を抑止するニーエアバッグ 骨盤後傾により,ラップベルトのずれ上がりとともに腰前進量も増えることを前述した。衝突時のこの乗員移動を抑制する安全装置の一つとして,ニーエアバッグを導入した。この装置により,人体耐性の高い下肢骨格部(主に,膝部)を拘束し,腰移動を抑えることができる。衝突ダミーを用いた検証でも,腰前進の大幅な改善が見られた(Fig. 15)。更に,大腿部荷重も傷害閾値以下であることも確認済みである。下肢骨格部の拘束を加えることでラップベルト拘束時に生じる骨盤への荷重を分散させ,入力バランスの最適化を可能にする効果も得られる。(2012)―55―natural sitting spinal alignment–insights into a new paradigm and implications in deformity correction, The Spine Journal, Vol.17, pp.183-189 (2017)and in sitting–important considerations for correction of spinal deformity, The Spine Journal, Vol.17, pp.799-806 (2017)alignment in the sitting position in an automobile, The Spine Journal, Vol.20, pp.614-620 (2020)Traffic Injury Prevention, Vol.13, pp.364-372 onSeat Belt Fit, Stapp Car Crash Journal, Vol.57, pp.43-57 (2013)Automobole Driving Postures for Men and Women Including Effects of Age, Human Factors, Vol.58, No. 2, pp.261-278 (2016)on Lap and Shoulder Belt Paths, IRCOBI conference, pp.317-326 (2017)Driver Injury Risks in Frontal Crashes: A Parametric Human Modelling Study, IRCOBI conference, pp.656-667(2017)Occupant Kinematics in Highly Reclined Seats Fig. 14 E■ect of Lap Belt Anchor in SeatFig. 15 E■ect of Knee Airbag4. まとめ 以上の安全技術を組み合わせ,乗員が接する車両パーツとなるシートと安全装置による統合的な乗員保護を実現した。 本稿では,人間研究から明らかになった自動車乗員の骨盤状態について報告するとともに,その知見に基づきMAZDA3に装備された腹部傷害低減を実現する安全技術の概要を紹介した。人間研究の章では,シートベルトによる拘束で重要となる骨盤状態について,骨盤角度(と脊椎アライメント),骨盤形状,骨盤大きさ,各因子の個体差を分析し,人体FEモデルを用いた衝突シミュレーションによるラップベルト及び乗員挙動の解析結果を述べた。シート着座時の乗員の骨格状態と腹部傷害発生の一因であるシートベルトずれ上がりの寄与因子を明らかにした。また安全技術開発の章では,傷害低減の対応技術として(1)サブマリン防止シート,(2)シート内蔵式シートベルトラップアンカー構造,(3)ニーエアバッグの3つについて目的や実際の効果を含めて解説した。死亡重傷低減の実現に向け,市場事故の分析と人間研究から万一の際にもお客様を保護するために必要な安全技術を開発するプロセスに沿って,今後も傷害低減技術を織り込んだクルマづくりを進めていく。 最後に,本研究は多くのボランティアの方にX線被験のご協力を頂いた。また,撮影・データ分析・モデル作成は,山口大学医学部附属病院整形外科の先生方や放射線部診療放射線技師の皆様,工学部機械工学科の先生方にご協力頂いた。ᅠ(1) H.W.D. Hey et al.: Differences in erect sitting and ᅠ(2) H.W.D. Hey et al.: How the spine di■ers in standing ᅠ(3) N. Nishida et al.: Changes in the global spine ᅠ(4) M.P. Reed et al.: E■ects of Obesity on Seat Belt Fit, ᅠ(5) M.P. Reed et al.: Effects of Driver Characteristics ᅠ(6) J. Park et al.: Statistical Models for Predicting ᅠ(7) M.L.H. Jones et al.: E■ects of High Levels of Obesity ᅠ(8) J. Hu et al.: Stature and Body Shape Effects on ᅠ(9) K. Boyle et al.: A Human Modelling Study on 参考文献

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