マツダ技報 2020 No.37
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 SKYACTIVXは,火花点火制御圧縮着火:Spark Controlled Compression Ignition (SPCCI) により,ガソリンエンジンとして世界で初めて圧縮着火を採用することで,走る歓びと環境性能を両立した。圧縮着火を安定的に行う上で重要な要素の1つが燃焼室内の緻密な温度制御であり,Fig. 2に示すように,SKYACTIVXのW/Jはこれまでにない狭小かつ複雑な形状となっている。SKYACTIVXを実現するためには,この複雑なW/Jを高い寸法精度で成形することが極めて重要な課題であった。―58―Fig. 1 Outline of Cylinder HeadFig. 2 Water Jacket Sand MoldFig. 3 Conventional Manufacturing FlowFig. 4 Manufacturing Flow with a Focus on MBD2. SKYACTIVX実現の重要課題3. SKYACTIVXを実現するプロセス革新 従来,モノ造り(製品開発)の進め方はFig. 3に示すように,実機を中心とした摺合せ型の開発であり,自部門のアウトプットが後工程部門のインプットになるような,バトンリレー式の直列フローが一般的である。この(=ミニマムコスト)で実現するために,新規のモデルベース開発(以下MBD(Model Based Development))技術を開発し,適用した。 走る歓びと環境性能を両立する上でエンジンの役割は大きく,出力特性と燃費を高い次元で両立することが求められる。 Fig. 1に示すように,C/Hは燃焼時の火炎伝ぱを制御する燃焼室や吸排気の空気の流れを制御するポート,燃焼熱を冷却する水流れを制御するW/Jを組み込んでおり,動力性能や燃費に大きく寄与するエンジンの主要部品である。方式は確実に進めれば無駄が発生しにくいが,最終的な不具合は大きな手戻りを生じる。 そこで,製品設計の初期段階から関係する全ての部門が「モデル」による摺合せ開発を行う方法を目指している(Fig. 4)。例えば,残留応力モデルによる生産性のCAE検証により,工程や金型を同時に最適化しながら,そのCAE結果を開発部門と共有して製品機能のCAE検証にも活用し,予想されるさまざまな問題を未然に防止するやり方である。ここでいう「モデル」とは机上で再現したい現象をIPO(Input-Process-Output)や相関式で明確化して机上検証可能なツール化したものをいい,いわゆるCADで使う3Dモデルとは一線を画すものである。 また,複雑なモデルの計算は,システム化したCAEツールで解く。 この机上検証を基軸として従来の限界を突破しようとする「モノ造り」をMBDと定義して,全社的に展開しようとしている。4. シリンダーヘッド寸法のモデルベース開発 弊社ではC/HをAdvanced Precision Mazda Casting(以下APMC)工法で鋳造している(Fig. 5)。この工法は,全ての鋳型を砂型(以下中子)で構成した製品形状自由度の高い,コスワース鋳造法を発展させたものである。その特徴はコスワース鋳造法に加え,中子の一部を金型化することで急冷凝固による緻密な鋳造組織を得るとともに,シャワー冷却による焼き入れ効果を取り入れて熱処理レスを実現している点にある。これにより,機械的性質を向上しながら薄肉形状を成形可能としている。 APMC工法におけるMBD技術マップをFig. 6に示す。これはモデル化すべき道筋を,長期的な商品動向をも見据えてまとめたものである。実用化したものを青色,開発中のものを黄色,開発予定のものを赤色で示している。

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