マツダ技報 2020 No.37
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―60―6.2 実態に則した拘束条件の織り込み 2つ目は実態に則した拘束条件の織り込みである。APMC工法では複数の中子と金型を組み合わせて鋳型を構成している(以下,中子が組み合わされた鋳型をサンドパッケージと呼称する)。サンドパッケージは複数の搬送工程を経た後,溶湯充填を行う鋳造機中で把持される。各中子間には金型製作時の製作公差や中子造形時のバラツキを考慮して,位置決めや干渉回避など,目的別のクリアランスが設けられている。そのため,鋳型に外力が加わる工程では,クリアランスに変化が生じる可能性がある。そこで,量産各工程における中子の変位を連続測定し,クリアランスの値の変化を明確にした。Fig. 10に中子変位の測定装置を示す。サンドパッケージ内部に設置したダイヤルゲージを,小型カメラで撮影することで連続的に測定している。この中子挙動の測定結果から,サンドパッケージクランプによるクリアランス変化のメカニズムを解明し,巾木部の拘束条件の変化として中子熱変形モデルに織込んだ。Fig. 10 Sand Mold Behavior MeasurementFig. 9 Bending Test6. 実態計測に基づいたモデルの深化 中子熱変形モデルの構築に向け,実態計測に基づいたメカニズム解明から,熱変形の制御因子(物性値,中子拘束などの境界条件等)と誤差因子(雰囲気温度,中子初期温度等)を鋳造の工程ごとに網羅的に洗い出し,IPOとともに整理した。 CAEは,この制御因子や誤差因子のパラメーターを計算しながら,実際の生産と同様に,各工程の計算結果を次工程の初期値につないで最終結果を得る。中子熱変形モデルのCAEは,上述のメカニズムから,中子各部位の熱膨張と反力を正確に計算するためのパラメーター設定が重要である。 中子熱変形モデルの深化に向け,以下の2点に注力した。6.1 実態に則した物性値の取得 1つ目は実態に則した各種物性値の取得である。中子熱変形において特に重要な物性値は,熱伝導率と各温度域の強度である。従来のCAEにおいて,中子の熱伝導率は重量比で98%以上を占める砂単体の熱伝導率を採用していた。しかしながら,中子は結合剤に包まれた砂の集合体であり,砂単体の熱伝導率とは相違している。すなわち,砂単体では内部熱伝導現象のみを扱えばよいのに対し,中子は砂粒間の結合剤を介した熱伝達を伴う伝熱特性として把握する必要がある。そこで,中子の熱伝導率を測定した結果,従来採用していた砂単体の値に対して,大幅に小さいことが分かった。これは,上述したように砂単体での熱伝導現象に対し,中子では砂粒間の結合剤を介した点接触による熱伝達現象であるため,見かけの熱伝導率としては非常に小さな値となったと考えられる。 中子の各温度域の強度測定において,外注した中子単体の計測方法では200℃以上になると結合剤が軟化して中子が崩壊するため,測定できない問題が発生した。しかし,量産で鋳造した後の中子を調査すると強度が残っていることがわかった。そこで,結合剤である樹脂の温度による状態変化を調査したところ,酸素と反応して発生した水による軟化やその蒸発による硬化,及び分子結合の分断による崩壊と,温度域によって変化することを突き止めた。また,W/J中子は鋳造時にアルミ溶湯で鋳包まれるため,酸素供給が少ないことから,鋳造状態を再現したFig. 9に示す実験計測方法を考案した。その結果,常温から500℃まで50℃ごとの強度を取得するとともに,結合剤樹脂の各温度域の状態により強度が増減する特性も確認できた。 取得した各物性値の確からしさは,簡単な形状のテストピースを用いた実験とCAEの比較結果で確認している。

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