マツダ技報 2020 No.37
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―61―6.3 モデル改善効果 W/Jの中子熱変形解析結果と実鋳造したC/HのW/J部の寸法測定結果との比較をFig. 11に示す。中子熱変形モデルの最適化には,これまで量産導入した中で一番変形が大きい機種のW/J中子を用いた。物性値とクリアランスを織込んだ改善モデルは,実測の曲線傾向と近似しており,整合している。活動開始時の整合率21%に対し,改善の結果,整合率を80%以上に高めることができており,実用的なモデル精度を確保できた。Fig. 11 Analysis PrecisionFig. 12 Optimization of Mold Structure by MBDFig. 13 Conclusion of MBD8. 成果9. おわりに なお,寸法規格の±0.8mm以内に一発で収め,かつ量産での寸法変動を考慮し,予実差±0.2mm以内を整合の条件と定義し,整合率80%以上を目標として設定している。7. モデルを活用した変形対策の立案・織り込み 構築した中子熱変形モデルのCAE検証で,SKYACTIVXのW/J変形を予測するとともに,変形を抑制する鋳型構造を開発した。その結果をFig. 12に示す。従来の鋳型構造では,XYZそれぞれの方向に大きく変形しており,最大で1.6mm変形している。変形を抑制する考え方として,熱膨張は物理現象として不可避であることから,拘束を制御する因子である中子クリアランスと中子支持位置の最適化を検討した。結果,Fig. 12のMBDに示すように製品中央部の巾木はXYZ方向を固定し,両端はYZ方向を支持してX方向にクリアランスを設け自由膨張させる仕様が,最も変形量が少ないことを導き出した。これにより,熱膨張量分を中子全体の拡縮補正で簡便に制御が可能になる。この構造によりYZ方向の変形を0.1mmに抑制できた。 これまで実機のトライ&エラーで達成していたW/J寸法を,中子熱変形MBDを適用した結果,前例のないSKYACTIVXのW/J形状を寸法規格±0.8mm以内に対し,予実差±0.2mm以内の整合率90%を達成し,実機寸法を±0.5mm以内で成形できた。SKYACTIVXの製品機能を実現しつつ,W/J寸法の金型修正レスを達成できたことで,Fig. 13に示す金型準備期間を22%,金型投資を19%削減した。 今回,中子熱変形を対象としたモデルベース開発プロセス構築に挑戦し,SKYACTIVXシリンダーヘッドでは製品機能と生産性を両立させるブレークスルーを実現できた。MBDにおいて中核をなすのは「モデル」と「CAE」であるが,モデル構築にあたっては「実現象を正確かつ詳細に把握し,整理すること」がスタートであり,最も重要であることを再認識できた。 また,素材寸法全体を予測する上で,中子熱変形の後の現象である素材熱収縮変形や後処理工程のモデル化も必要であり,現在取り組んでいる。将来的には,加工・組立プロセスも含めて,製品性能をMBDで評価・最適化し,さらなる製品機能の向上を目指していく所存である。 今後も,全てのステークホルダーへ笑顔を届けられるクルマ造りに向けて,技術への挑戦を続けていきます。 この論文は(株)日刊工業新聞社 型技術2020年6月号に投稿した内容に追記・転載したものです。

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