マツダ技報 2020 No.37
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―64―2.2 車体ラインの構成 車体生産ラインは大きく分けて3つで構成されている。各部品を小サブAssembly(以下Assy)するスモールサブライン,その小サブAssy部品やその他の部品を組み立ててアンダーボディーやサイドフレームなどのサブAssyにするサブライン,そしてボディーにルーフやドアなどのフタ物を組み立てボディーシェルにするメインラインである。 ラインは複数の工程から構成されており,各工程が決められた作業を行い,その作業が完了したら次の工程に部品を送るということを繰り返す(Fig. 2)。 それぞれの加工工程は,部品を位置決め・拘束する治具,部品を接合する溶接ロボットなど,多くの治具・加工設備で構成されている。Fig. 2 Configuration of Body Shop Assembly Line2.3 車体ラインでの加工 車体ラインでは次の加工プロセスを繰り返すことでボディーを組み上げている。 搬送(部品組付)⇒位置決め⇒接合⇒搬送(部品組付) 多数の治具での組付加工を繰り返し1台のボディーを組み上げるため,それぞれの治具において決められた精度で位置決め・接合を行い,高い精度のボディーを生産している。(1)部品の位置決め 部品の基準穴に基準ピンを挿し,部品の基準面を受けて,拘束することで部品を正しい位置に固定する。この基準穴,基準面のことを総じて加工基準と呼んでいる。これらの基準ピン,基準面を受ける,押さえるユニットの集合体が“治具”である。この治具には部品を正しい位置に位置決めをする機能(精度)と溶接加工中の部品位置を保持する機能(剛性)が求められる。(2)接合 約300点の部品を1台のボディーに組み立てるための主要な接合方法はスポット溶接であり,溶接機を保持したロボットにより行われる。スポット溶接は2枚または3枚の鉄板部品を両側から電極で挟み込み,加圧し,電流を流すことで発熱溶融させる接合方法である。3.車体フレキシブル化の取り組み4.現状の課題 車体組立ラインのフレキシブル生産技術は,1990年前後に電動ロボットの性能向上と適用技術の強化に伴い飛躍的に進歩した。CBAL(Circulation of Body Assembly Line)と称する多種変量生産ラインを防府工場に構築し1992年に生産を開始した。CBALのコンセプトは“車格や車型に関係なく繰り返し生産できる車体組立ライン”である。そしてそれを達成するための重要な考え方が標準ボディー構造である。生産技術のみで高効率生産を実現するのではなく,開発部門と十分な相互理解と協力の下商品性を阻害せず,生産しやすいボディー構造を開発し,それを標準構造として長期的に改善・進歩させることによりフレキシブル生産を実現した。このCBALのコンセプトが現在のフレキシブル生産のベースとなっている(1)。 2000年初めには,CBALの発展形としてサブラインであるアンダーボディー・サイドフレームラインのフレキシブル化にも取り組んだ。その過程でさまざまな多種変量生産技術を開発し,各拠点に展開した。その後,これらの技術に改善や見直しを加え,現在に至っている(2)。 このように新技術を取り入れながら車体組み立てラインのフレキシブル生産技術を進化させてきたが,標準ボディー構造を元に繰り返し生産できるラインすなわち汎用性が高いラインというコンセプトは一貫してきた。 ボディー構造の標準化を前提とした従来の汎用システムでは対応しきれない変化に対応するために,コンセプトを更に進化させた次世代のフレキシブル生産を具現化していく必要がある。4.1 商品進化への対応 従来のフレキシブル生産ラインは“ボディー構造の標準化”の上に成り立っている。しかし,近年では自動車の電動化によるバッテリー搭載,車両重量の増加による衝突安全対応の変化,エンジンと電動でプラットフォームが異なる等,ボディー構造は標準化の枠組みから外れつつある。 商品の進化が多車種混流生産ラインに与える影響は下記のとおりである。 ・新構造と現行工程のアンマッチ ・部品点数の増加による組付け時間の不足 ・加工量増加による加工時間の不足または工程数不足 ・材料の高強度化による治具機能や溶接機の能力不足従来の“標準”から外れたボディーを生産するために現行ラインの工程設計をやり直し現行車を含めた工程の追加/改造に投資と時間をかけて対応してきた。しかし,この手法では現行車の生産,品質に影響を出すケースも

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