マツダ技報 2020 No.37
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―1―Akihiro KidaniEvolution of Digital Technology to Support Monotsukuri 私は大学4年生の時,ほぼ毎日と言っていいほど学内の機械工場に通いつめ,卒業研究のための引っ張り試験用テストピースの製作に青春の大事な時間を費やしていました。「テストピースに要求される精度のものを『自分の手で』作ることができる。これこそが機械技術者としての第一歩である」と研究室の教授に指導されたので,フライス盤,ボール盤などの手動の工作機械を使ってテストピースを製作することに打ち込みました。要求された精度が出せるようになるまでにかかった期間は6カ月。その機械工場にはNCフライス盤もありましたが,壊す可能性があるからといって使わせてもらえず,となりでNCフライス盤をあやつる職人さんの作業を横目で見ながら,うらやましいのと同時に高機能・高精度のすばらしさに感心したのを今でも覚えています。(私が6カ月要したテストピースも数日で仕上げていました。)振り返ると,モノづくりを支えるデジタル技術に初めて興味を持ったのはこの時だったと思います。 1982年にマツダに入社し,幸運にもCAD/CAMシステム開発プロジェクトに参画することになりました。そのプロジェクトでは,自動車のデザイン,部品設計,金型設計ができる3次元CADシステムと,NC工作機械を使用して高精度・高効率で金型を製作するCAMシステムにより,商品の開発期間を短縮することを目標にしていました。私はCAMシステム開発の担当として,3次元CADデータからNC工作機械を制御するカッターパスの自動生成システム開発に取り組みました。やっとあこがれのNC工作機械とNC制御技術に触れる立場になり,ワクワクしながら仕事に没頭しました。当時は現在のような市販品はほとんどなく,多くの自動車会社は,CAD/CAMそしてCAEの開発を内製し,競い合っていました。商品開発や生産準備のモノづくりを高効率で実現するために,裏方的な存在としてCAD/CAM/CAEシステムの開発技術者が奮闘していた時代です。当時のコンピューター技術では,手書きの図面や職人が作る石膏モデルをトレース制御して金型を製作するモデル倣い方式に時間がかかり,CAD/CAMを動かす端末も大変高価で実用化に大きな課題がありました。 1990年代に入り,IT技術の進化と同期してCAD/CAMのアルゴリズムの継続的改善,そして工作機械の性能進化により,CAD/CAMシステムを使用した仕事が実用段階に入りました。1996年,経営者からの大きな期待の中で,マツダ・デジタルイノベーション・プロジェクトが立ち上がり,商品開発プロセス革新への挑戦が始まりました。すべての部品を3次元CADで設計し,それらの部品の金型設計も3次元CADで行い,金型を切削するNCプログラムを自動生成し,高速・高精度制御のNC工作機械で製作する技術。クルマ1台分の3次元CADデータを活用したバーチャル・テスティング。そのバーチャル・テスティングの精度を向上させるために現象解明が可能な実験計測解析装置。2000年以降,これらのデジタル技術を駆使執行役員木谷 昭博モノ造りを支えるデジタル技術の進化巻頭言

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