マツダ技報 2020 No.37
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―76―2.2 均質化法による多孔質材料の音響特性解析 均質化法とは,材料内部の微視構造を平均的に等価な特性をもつ周期的で均質な構造(ユニットセル)が並んだものに置き換え,ユニットセルの挙動を解いて平均化して,巨視構造の特性を得る手法である(Fig. 3)。Fig. 3 Schematic View of Homogenization of Fig. 1 Enlarged Image of Porous Material Left: Fiber Type, Right: Foam Resin Type2.1 Biotモデルによる多孔質材料の音響特性解析 Biotモデルは,音響エネルギーが多孔質材内部に入射した時の固体相と流体相の振る舞いについて,両者の相互作用を考慮して解析するモデルである(Fig. 2)。このモデルでは材料内部の骨格構造形状について直接的にはFig. 2 Biot’s Model OverviewPoroelastic Material要な微視構造を効率よく設計する技術を構築した(8)(9)。この技術を活用して,低減したい音の特性と限りのある配置スペースに対応した吸音材を効率的に設計し,CX30,MAZDA 3のエンジンカプセル化技術に適用した。本稿では,本技術の概要とエンジンカプセル用吸音材の開発事例を報告する。2. 多孔質吸音材微視構造設計技術の開発 本研究で取り扱う多孔質材料とは,細い繊維を重ね合わせたり,樹脂を発泡させたりすることにより,数μm~十数μmの骨格部(固体相)と数十μm~数百μmの空隙部(流体相)の二相からなる連通孔の材料のことであり,一般的に吸音材や断熱材として広く用いられているものを指す(Fig. 1)。マツダでは,モノを作って試行錯誤しながら仕様を決定するモノベースの開発ではなく,欲しい性能を得るために必要な微視構造パラメーター(骨格形状,骨格と空隙の寸法など)を机上で設計するモデルベースでの開発を目指している。 多孔質材料の音響性能を予測するために一般的に良く用いられる手法として,Biotのモデルによる手法がある(7)。この手法は比較的低い計算コストで解析できるが,材料微視構造と解析に必要なパラメーターとの関係が不明確であり,材料設計に用いることは難しい。一方,山本らは,材料の微視構造と巨視構造の特性を関連付けることのできる均質化法を用いて,多孔質材料の音響特性を解析する手法を開発した(6)。微視構造設計を可能とする手法であるものの,比較的計算コストがかかるため,所望特性を得るためのパラメータースタディを実施するには改善の余地がある。 そこで本研究では,均質化法とBiotモデルを組み合わせたハイブリッド手法を考案し,多孔質材料の微視構造をパラメトリックに計算する手法を開発した(8)(9)。本章では,Biotモデルと均質化法の概要を説明した後に,両者のハイブリッド手法による材料微視構造設計技術及びそこで必要な関係式の導出事例について述べる。考慮せず,固体相と流体相の相互作用影響を複数のパラメーター,いわゆるBiotパラメーター(10)によって表し,多孔質材内部で生じるエネルギー損失を求める。このモデルを例えば伝達マトリクス法(10)に適用して垂直入射吸音率(11)を計算する場合,1ケース当たり十数秒程度で結果が得られる。計算コストが比較的低く,予測精度が高いため,多孔質材の吸遮音特性予測に広く用いられているモデルである。しかしながら,Biotパラメーターは実験的に同定する必要があり,微視構造との関係が不明確なものが複数あるため,材料設計への適用は容易でない。 山本らはこの手法を多孔質材内部での音振動エネルギー伝搬現象に適用した。その概略についてFig. 4の流れに沿って説明する(詳細は文献(6)を参照)。 微視構造について,固体相を線形弾性場として,流体相を圧縮性の線形流れ場として取り扱い,それぞれNavier方程式とNavier-Stokes方程式を適用する。境界面において変位と垂直応力の連続条件を考慮する。温度場については,固体相の比熱が流体相の比熱に対して十分大きいことから,固体相では温度は平衡状態であると

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