マツダ技報 2020 No.37
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(2)樹枝状陽極酸化(Anodization Treatment) 陽極酸化は孔径約30nmの微細な空孔をもつ処理層をアルミ表面に形成し,その層内に溶融樹脂が侵入することで主としてアンカー効果により強度を向上させる手法である。また,表面積が増えることで元々の接着性を高める効果も得られる。陽極酸化アルミの表面及び接合断面の写真と断面模式図をFig. 4に示す。―82―2.2 接合条件・試験片形状 接合にはツールの挿入方向の位置を制御可能な位置制御式摩擦撹拌点接合装置を使用し,径2.0mm高さ0.35mmの先端プローブをもつショルダー径10mmの回転ツールにより継手を作製した。今回設定した接合条件Fig. 1 Aluminum/Aluminum Joining by FSSWFig. 2 Aluminum/CFRTP Joining by FSSW2.1 評価材料 アルミニウム(以下アルミ)には板厚1.2mmのA5052-H34材を使用した。酸洗材を基準材とし,表面処理はアルミの接着性改善を目的に開発されたポリオレフィン系有機被膜処理と樹枝状陽極酸化処理の2種類について比較評価を実施した。樹脂材料にはポリプロピレン(PP)に40wt%の不連続炭素繊維を混合し,板厚3.0mmに射出成形した材料を使用した。本材料を以下,CFPPと表記する。PP自体は官能基を持たずアルミと直接的な接着性を有さない。それに対し,今回使用したCFPPは繊維の混合工程を含む材料製造時にアルミ表面と反応する官能基を含む成分が添加され,マトリックスとして溶着時の接着性が改善されたものとなっている。アルミとCFPPの仕様詳細をTable 1に示す。Table 1 Material PropertiesFig. 3 Organic CoatingFig. 4 Anodization Treatment脂の摩擦熱による点接合技術である。樹脂中に含まれる官能基とアルミニウム表面の酸素リッチ層との化学結合など,いくつかのメカニズムにより接合されると推測されており,直接接合することにより副資材が不要になることや製造ラインに適用しやすいメリットがある(Fig. 2)。 アルミニウムと樹脂の間の接合強度は,各素材の成分や表面状態,また,周囲の環境を含めた接合の条件によって決まり,それらを適正に制御することで実用強度を得ることができる。また,素材へのさまざまな表面処理と組み合せて接合することで強度特性を向上させることが可能である。 本報では,接合部の強度特性や耐久信頼性の向上を目的とし,アルミニウム側に施す表面処理の効果を調査するとともに適用の可能性を検討した。2. 実験方法 今回評価したアルミ表面処理2種について,強度向上メカニズムの概要を次に示す。(1)有機被膜処理(Organic Coating) 今回使用したCFPPには官能基が含まれており,化学結合を主としたアルミ表面との接着力をもつ。この化学結合による接着力の向上を目的とするのが有機被膜処理である。本報では膜厚2μm相当のポリオレフィン系有機被膜処理材を評価した。接合界面に配置された有機被膜はツール/アルミ間の摩擦熱により溶融し,同様に溶融したCFPP表面と相溶する形で異種材料間は接合される(Fig. 3)。構造上はアルミ/CFPP間に接合強度を高める接着剤を介する形で接合されており,使用する場合は有機被膜種を樹脂母材種に合わせて選択することが重要となる。有機被膜と樹脂材料が適正に相溶しなければ有機被膜/樹脂間の十分な接合強度が得られず,結果,この表面処理により反対に接合強度を低下させる場合もある。

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