マツダ技報 2020 No.37
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―2―した技術開発プロセスや商品開発プロセスの革新を進め,スーパーコンピューターをフル活用した衝突解析・燃焼解析等のシミュレーション技術も大きく進化し,試作品による試行錯誤の限界を突破し,エンジニアが新技術・新構造に挑戦しやすい環境づくりに貢献しました。同プロジェクトで取り組んだモノづくりを支えるデジタル技術の成果は,開発の効率化にとどまらず,相反する課題をブレークスルーしたSKYACTIV技術を搭載した商品を市場導入できたことです。世界初のSPCCI (Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火) を搭載したSKYACTIVḋXもデジタル技術の支えがあっての成果であり,まさにオペレーション・ブレークスルーがテクノロジー・ブレークスルーを生み出したといっても過言ではないと思います。 CASE時代に突入し,超高速・高精度な画像処理やセンシング,5G通信,AI,クラウド,量子コンピューターなどの先進要素技術を駆使した安全・安心な商品の提供とお客さまとクルマがつながることによる新たな付加価値提供が求められています。これらを実現するのはソフトウェア開発力です。目に見えるハード部品中心のBOM (Bill Of Materials:部品表) では限界があり,クルマ一台分の制御ソフトウェアやMBD (Model Based Development) のモデルまであつかえるBOM,さらにそのMBDモデルの根拠となるテスト解析データやコネクテッド通信から得られる市場データとの因果関係まで容易にわかるBOM,すなわちソフトウェアBOMが必要になっており,現在,当社はそれらの新たなデジタル技術の開発を進めています。今後,我々の業務の中に占めるソフトウェア開発の仕事量が飛躍的に増えることは明らかです。新しい商品のためのソフトウェア開発とそのソフトウェア開発を効率化し自動化するようなソフトウェア開発です。これらのソフトウェア開発は,物理現象からロジックを導き出すことやお客さまの安全・安心を提供する観点からソフトウェアに要求される品質の厳しさと緻密さが要求され,ソフトウェアの開発プロセス革新が,今後の当社のデジタル技術の進化の方向と考えます。また,世界各国での環境規制強化,CASE対応により,技術開発・商品開発に関わる技術者の仕事量は著しく増加傾向にありますが,一方で少子化による日本の労働人口の減少や新しい働き方の浸透により,技術者の生産性を飛躍的に向上することが必要不可欠な時代に突入していくでしょう。自動化できる業務は,ローコード(Low-Code Development Platform:最小限のソースコードでソフトウェア開発を高速化するためのITツール),RPA(Robotic Process Automation),AI等を活用して徹底的に自動化を進め,技術者が,考え抜くことに集中できる環境の構築,さらにワークライフバランスを満たせる環境の構築もますます重要になります。 NCフライス盤に出会ってからもうすぐ40年になりますが,こうして振り返ってみると,モノづくりのデジタル技術は当時想像していたよりはるかに大きく進化したと思いますし,今後も進んでいくのだと感じます。このソフトウェア開発プロセスの革新の成功の鍵は,人です。IT人財の確保が難しくなることを考慮すると,デジタル技術を実際に使用して試行錯誤しながらも既存業務を効率化・自動化できる人(IT人財)を社内で育てることが重要と考えています。彼らが,さらにクルマのソフトウェアの開発プロセスの効率化まで支援できる人財に成長すれば,人財のデジタル・トランスフォーメーションが達成できます。そのためには,私がNCフライス盤を初めて使った時のようなワクワク感を彼らにも経験してもらうことも大事なことだと思います。今後も仕事を楽しみつつも,飽くなき挑戦の姿勢を貫き,次の100年に向けてモノづくりを支えるデジタル技術の持続的な進化を進めてまいります。みなさまのご支援・ご指導をよろしくお願い申し上げます。

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