マツダ技報 2020 No.37
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―87―Fig. 1 Overview of Intake SystemFig. 2 Major Heat Path in Intake SystemFig. 3 Process of Sensitivity Analysis via Adjoint Methodよって吸気温の低減を効率的に検討するプロセスを説明する。 吸気温の低減を実現するには,吸気系に冷却または断熱機能を付加する必要がある。しかし,吸気系は経路が長くエンジンルーム内にはさまざまな熱源があることから,吸気の昇温過程は複雑である。Fig. 1は本研究が対象としている自然吸気ガソリンエンジン用吸気系の全体像,Fig. 2は吸気の流れと主要な伝熱経路を表したものである。車両前面からダクトによって吸入された空気は,吸気系を構成する各デバイスを通過したのち,吸気ポートを経てエンジン筒内へと至る。その過程で空気は吸気系周囲に存在するエンジンを始めとした各熱源からさまざまな伝熱経路を経て受熱し,数十度以上昇温する。 吸気温低減技術の開発においては,このような複雑な昇温過程をもつシステムに対して,効果的な冷却・断熱の方式や部位を見出す必要がある。しかし,上記の検討を実験的な試行錯誤によって行うことは開発効率の面で問題がある。そこで,この検討を効率化し開発スピードを向上させるために逆解析の一手法であるアジョイント法を活用し,吸気温の低減に対して効果的な冷却部位を見出し,その冷却効果を机上で定量的に見積もった。 この問題に対するMBDの活用には2つのアプローチが存在する。一つはパラメータースタディによる感度解析,もう一つはアジョイント法による感度解析(6-12)である。前者は,吸気系の物理学的挙動を模擬する数値流体力学(CFD)モデルを用い,冷却部位が異なるさまざまなケースについて吸気温を予測するシミュレーションを行う。それらの比較検討から,冷却部位の変更が吸気温にどのような変化をもたらすかを検討し,効果の高い冷却部位を見出すことが可能である。この方法は汎用性が高くさまざまなタイプのモデルに対して適用可能だが,その反面,規模の大きいモデルを用いた多数のシミュレーションを実行する必要があるため,検討に時間を要するという側面がある。これに対して後者のアジョイント法による感度解析は,吸気系のCFDモデルそのものではなく,それを基にして数学的に生成されるアジョイントモデルの解析を通じて冷却部位と吸気温の関係を見出すものである。この方法は適用範囲に制限があるものの,アジョイントモデルを1回解析するだけで冷却部位と吸気温の関係すなわち冷却の感度が求まるため,計算回数を圧倒的に抑えることが可能である。解析に先立ち吸気系のモデル化手法を検討した結果,吸気系はアジョイント法の適用条件を満たす形でモデル化可能であることが分かったため,本研究では後者のアジョイント法による感度解析を用いた。3.2 解析手法 アジョイント法による感度解析の概略をFig. 3に示す。入力 x に対して出力 y を与えるモデルfが与えられており,出力yの良し悪しは評価指標 J によって定量的に評価されるとする。またアジョイント法を用い,モデル f を基にアジョイントモデル g をあらかじめ生成しておく。以上の基で,まず入力 x を用いてモデル f を解き,その結果出力 y を得る。次に,出力 y の良し悪しを評価指標 J によって定量化する。その上で,今度は評価指標 J をアジョイントモデル g に入力し, g を解く。その結果から,感度 ΔJ/Δx が得られる。ここでいう感度 ΔJ/Δx とは,入力 x を Δx だけ微小変化させた時に評価指標 J がどの程度変化 ΔJ を示すかを表すものである。より正確かつ一般的な説明及び吸気系への適用については文献(5)に詳細が与えられている。 以上を吸気系に適用した場合,入力 x は吸気の流入温度や吸気系の壁温分布,モデル f は吸気系のCFDモデル,出力 y は吸気温,評価指標 J は吸気温とその設計目標との差であり,感度 ΔJ/Δx は吸気系の任意の場所の管壁面温度に変化 Δx を加えた際に吸気温がどの程度の変化 ΔJ を示すかを表す量である。感度が大きい部位ほど冷却効果の高い部位を示す。より一般化した表現をすると,評価指標 J は吸気系のあるべき姿と現状の設計案のギャップ,感度 ΔJ/Δx はあるべき姿に近づくための施策を示唆

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