マツダ技報 2020 No.37
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―92―Boundary lubrication occurs at the start/stop of an engine and on the top/bottom dead centers of a piston. With the boundary lubrication, solid-solid contacts partially occur, which cause high friction resistance and wear. As a countermeasure, diamond-like-carbon (DLC) is an e■ective coating material with low friction and high wear resistance. For the Elasto-hydrodynamic lubrication calculations, Greenwood-Tripp (GT) has been used as the model of the boundary lubrication phenomena, but the GT model is not su■cient to reproduce the e■ect of coating materials and the microstructures of the contact interfaces. Therefore, the molecular dynamics method was used for modeling the e■ect of a molecular structure on the frictional properties in the boundary lubrication condition. The e■ect of the DLC molecular structure on the friction properties was clarified using a simulation model. To verify the friction mechanism, ring-on-disc friction tests and Raman spectroscopy analysis were performed.Technical Research CenterKentaro KawaguchiYuma MiyauchiKey words:Heat Engine, Lubrication/Tribology, Theory/Modeling, Molecular Dynamics Method1. はじめにAtomistic Simulation for Boundary Lubrication in Engine Tribology論文・解説16が発生するため,潤滑流体の低粘度化により油膜形成能力が低下し,境界潤滑での運転割合が増加する可能性がある。境界潤滑では,摩擦損失増加とともに摩耗や焼付きなどの信頼性問題発生の懸念がある。この境界潤滑の摩擦,摩耗特性を向上させるために,表面コーティングが有効であり,中でもダイヤモンドライクカーボン(DLC)は低摩擦,耐摩耗性をもつ材料として期待されている。DLCはダイヤモンドとグラファイトの中間構造である非晶質炭素膜であり,水素を含む水素化アモルファスカーボン(a-CH)と水素を含まないアモルファス 温室効果ガスの抑制のために,自動車用内燃機関の熱効率向上すなわちCO2排出量の低減が有効であり,燃焼制御による図示熱効率向上に加えて,摩擦損失低減による正味熱効率向上が必要である(1)。摩擦損失低減においては,エンジンの全運転領域において摩擦低減が必要でありエンジンオイルの油膜が存在する流体潤滑の摩擦損失低減にはエンジンオイルの低粘度化が有効である。一方,自動車用内燃機関の摺動面は数十MPaを超える面圧*1,2  技術研究所 河口 健太郎*1宮内 勇馬*2要 約 エンジン摺動面の潤滑状態の中で,ピストンの上下死点やエンジンの始動停止時ではエンジンオイルによる油膜形成が困難であるため,部品表面の粗さ同士が固体接触する境界潤滑状態となる。境界潤滑は摩擦抵抗が大きく,摩耗の懸念があるため摺動面への材料コーティングによる対策が図られている。中でもダイヤモンドライクカーボン(DLC)は低摩擦かつ耐摩耗性をもつ材料としてエンジン摺動部への適用検討が進められている。一方,境界潤滑現象のモデルとして,エンジンシミュレーションに用いられる弾性流体潤滑(EHL)計算では,粗さを確率密度で表現したGreenwood-Trippモデル等が用いられてきた。しかし,これらのモデルではコーティング材料の影響や表面粗さの形状変化に起因するなじみや凝着現象を十分に表現することができない。このため,材料や形状の影響を伴う境界潤滑モデルとして,分子動力学法(MD)を適用する研究を実施し,DLCの原子構造が摩擦特性に及ぼす影響をモデルから明らかにした。また,メカニズムの妥当性検討のため摩擦実験と表面分析を実施し,解析結果との相関をもつことを確認した。Summary分子論に基づくエンジン摺動面の境界潤滑解析技術

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