クルマづくりの歴史

マツダの名車たち Great Cars of MAZDA

軽自動車の常識を塗り替えた「キャロル360」

 大きな成功を収めた「R360クーペ」に続き、1962年2月23日、マツダは「歓びの歌」という名を持つ全く新しい軽乗用車を世に送り出した。「キャロル360」である。このクルマは、1961年の東京モーターショーで脚光を浴びたプロトタイプモデル「マツダ700」と並行して開発が進められていたもので、大人4人が乗れる余裕の室内空間をはじめ、さまざまな点で従来の軽乗用車を超える内容を備えていた。特に人々の注目を集めたのは、ルーフ後方を大胆に切り落としたクリフカットと呼ばれるスタイルだった。全長3mという当時の軽自動車の規格内で4人乗りの室内空間を確保するためのデザインが、同時に、ユニークで格調高い「キャロル360」ならではの個性を生み出すことになったのである。

上質さと多彩さで圧倒的なシェアを確保

 メカニズムにおいても「キャロル360」は当時の軽乗用車の水準を上回っていた。新開発の358ccエンジンは総アルミ合金製の水冷直列4気筒4サイクルで、乗用車にふさわしい静粛性が確保されていた。また、サスペンションには前後トレーリングアームの4輪独立懸架が採用されるなど、まさに小型車並みのメカニズムを備えた本格的な乗用車として好評を博したのである。1962年5月にはデラックス仕様が追加され、翌1963年9月のマイナーチェンジでエンジン出力を18馬力から20馬力へアップ。さらに軽自動車ではキャロルが初となる4ドアモデルもラインアップされた。そしてマツダは軽乗用車において、1962年67%、1963年62%、1964年56%と圧倒的なシェアを確保することになった。

キャロル360

キャロル360


100万台目のマツダ車はキャロルだった

 1962年11月に登場した「キャロル600」もまた、マツダの発展の歴史を語るには欠かせないモデルである。プロトタイプの「マツダ700」をベースとし、586ccの総アルミ合金製水冷直列4気筒4サイクルエンジンを搭載したこのクルマが、来るべきファミリアシリーズ開発への貴重な経験をマツダに残したのである。また、マツダが累計生産台数100万台突破という輝かしい記録を打ち立てたのもこの時だった。1963年3月9日、100万台目のマツダ車となったゴールドメタリックの「キャロル600」がラインオフしたのである。50万台目までに29年4ヶ月を要したのに対し、それからわずか2年2ヶ月で100万台に達したという事実は、この時期のマツダの急成長ぶりを物語るものにほかならない。

358CCエンジン

358CCエンジン