MAZDA

MAZDA 100TH ANNIVERSARY

安全を守る手

衝突安全開発担当 木戸啓人 / 日本

木戸啓人は、2005年からマツダの衝突安全開発にかかわっており、衝突テストが今後も重要である点を話している。「我々は、仮想の環境(シミュレーション)で多くの衝突テストを実施していますが、実際にクルマを用いてテストを実施するのは、シミュレーションで安全なクルマである事を検証したうえで実施する必要があります。そこでは、衝突時に乗員への影響を最小限に抑える方法を検討しているんです。この実験にはクルマの構造を細部まで分析する事も含まれており、様々な安全装備の効果を検証する事も実施しています。」

木戸は、コンピュータシミュレーションの進化速度には驚くものがあり、彼やチームメンバー含め、この技術を積極的に使用して開発している事を認めている。しかしリアルな衝突実験は、量産モデルが実際にリリースされる前に必ず必要なプロセスであり、クルマが量産化される前の、数ある最終確認事項のひとつである。木戸は次のように説明している。「安全性能は、新しいモデルの企画段階から検討され、主査やデザイナー、企画部門と綿密に話し合いが行われます。例えば、エンジンや乗員の座席がクルマのどこにどのように配置されているかは、安全性能において最重要事項です。さらには、クルマが衝突した際に、乗員が受ける衝撃力の大きさをシミュレートします。これらのコンピュータシミュレーションから得られたデータに基づいて、乗員の影響を最小限に抑える方法を研究します。実際の衝突試験で非常に重要な数値は、クルマとダミー人形に取り付けられたセンサーから収集できます。 大人を想定したダミー人形の全身には約100のセンサーが装着され、さらにクルマ側にも50のセンサーが装着されます。各衝突テストから多くのデータが収集されるんです。」

「我々は、正面、背面、斜めおよび側突に至るまで、あらゆる種類の衝突試験を実施しています。私たちは50体以上のダミー人形を保有していますが、それぞれが異なる目的を果たしているため、同一のものはほとんどありません。」またビデオ撮影はデータ収集においても重要な役割を果たし、マツダは各テストで約20台のカメラを作動させ、少なくとも1秒あたり1000フレームで記録している。高度なシミュレーション技術の進歩により、クルマの先行段階ではシミュレーション主体で構造検討して、衝突実験自体は、最終の確認の位置づけとして実施している。「エクステリアデザインが個性的なフォルムになればなるほど、より多くのテストを実行しなければならないというわけではありません。しかし、各市場には各国の交通事故の事情を踏まえた自動車の安全性に関する独自の規制と要件があり、これらに対応するため通常はモデルごとに約100回の衝突試験を行います。」

各新車の安全性に関する評価(NCAP)を政府や第三者機関が実施し、公表している。マツダは近年、継続的にこれらのテストで非常に好成績を残している。公表される安全性能については、どの自動車メーカーも良い成績を得るため競争している。しかし外部からの評価も重要であるが、そこで得られる評価を目標にしているわけではない。木戸は次のように説明する。「我々の目的は、単にNCAPで高い評価を得ることだけではなく、より市場事故を考慮したリアルワールドでの安全性能を目指します。これはマツダの技術の一部である『マルチロードパス構造技術』という考え方から垣間見ることができます。これは衝突エネルギーを多方向に分散させるという、衝突安全性能を向上させるSKYACTIV-BODYの中心的なコンセプトです。」また木戸はこう続けた。「安全性に関しては、その中でもマツダが重視しているのは、考えられるさまざまな交通事故シナリオ/ケースを考慮して、それによって乗員が受ける衝撃力の影響の詳細な分析を行う事です。衝突安全は万が一の衝突事故の際に、乗員や歩行者に加わる衝撃力を小さくして、可能な限り傷害を低減する事であり、人を守る事が目的です。この衝突安全の基本も、マツダの開発思想と同じく人間中心です。」

木戸は、最後にこう締めくくった。「今日でも、残念ながら毎年100万人が交通事故によって命を落としています。言うまでもなく事故のないシナリオが最善であり、交通事故で犠牲になる人をなくす事が最終的に我々が目指しているゴールです。我々の最先端の安全機能は今も、そして未来にわたって命を救う事ができると思っています。そのため乗員保護を目的に、先進の安全技術を提供できるよう常に努力しているんです。」
(2020年取材)